重要なのは「普通じゃないもの」を問い続けること
高井:私たちはチェキの新製品を検討する際に、デモ機を制作してユーザーの方々にインタビューを行っているのですが、その時にも平山さんが話す「脱・予定調和」「永劫性」「手触り感・いびつさ」への欲求の高まりは実感しています。
たとえば、チェキにデジタル要素を入れると当然写真がきれいになります。それを若い世代に体験してもらうと「画像はこれ以上にきれいにならなくて良い」という回答が返ってくることがありました。機能を高め続けてきたメーカーからすると驚いてしまうのですが、もはや当たり前になった「きれい」との違いを欲していると感じますね。

平山:Z世代によるアナログ回帰の傾向は、今後どのように変化していくと考えていますか。
高井:デジタル技術の革新により、次々と便利なサービスが現れて多くの人に活用されていく一方で、
適度に手間がかかり、時間を要しながらも情緒的要素が強いサービスの価値も高まっていくと考えています。若い世代にとっては、アナログやレトロな商品を「懐かしいもの」ではなく、「今と違うもの」としてとらえています。今後、技術革新にともなって新しい技術が「世の中の普通」になっていきますが、その際に「
普通じゃないものって一体なんだろう?」と考えることが若い世代に受け入れられていくためには重要なんだと考えています。平山:テイストとしてのレトロは一定の盛り上がりを経て、他の流行と同様に移り変わっていくものだと思います。一方で、デジタル化によりあらゆるものが整備され、画一化されていくことに対しての揺り戻しはこれからも起こっていくと私も予測しています。こういった意味で、デジタルとアナログはZ世代の中で共存して進んでいくのではないでしょうか。
「価値観は永遠ではない」ペルソナのアップデートが必要
平山:アナログに価値が見出されていくとはいえ、時代の流れとは違う価値を見つけ出すという作業は非常に難しいと思います。具体的にどのように行っていけば良いと考えていますか。
高井:ユ
ーザー調査を通して対話を繰り返すことが重要だと考えています。当社で行っているユーザー調査の方法は大きく3パターンあります。一つ目が、全世界を対象に数千人のユーザーから声を拾い上げる「グローバルでのオンライン調査」。二つ目が、国ごとにもう少し深堀をする「ローカルでのオンライン調査」。三つ目が「対面調査」です。対面に関しては、一つの製品を作るために、チームごとに世界各国の現地に訪れ、丸2日間調査を行ったりもします。このようにして得られた調
査結果を抽象化し、根本にある考え方やニーズを突き詰め、共通項を見つけ出すことが大切だと考えています。平山:ペルソナを一人立てる場合も、こうした定量・定性の調査を経て共通項を見つけ出した上で設計していくことが重要なんですね。
高井:そうですね。また、
時代の変化に合わせてペルソナをアップデートしていくことも重要です。たとえば、3年前に設定したペルソナをそのまま使ってはいけません。当然月日がたてば、生活習慣や社会環境、仕事上での立場も変化しますし、それにともない内面や考え方も変わるはずです。そう考えると、Z世代がこの先も永遠に今のZ世代の価値観を持っているわけではありません。人生のフェーズの変化なども加味してペルソナを設定していくことが重要だと考えています。平山:共通項を取り出すという考え方を大事にしながら、様々な調査・検証を行った上で一人の相手に向けて製品づくりを行う。これがチェキをZ世代にヒットさせた秘訣なんですね。本日はどうもありがとうございました。