効果を最大化する「文脈・得意」に応じたクリエイター起用
MZ:楽曲とそのMVの制作や発信についてはどのような工夫がありましたか?
暮井:まずyamaさんを起用した理由についてお話します。yamaさんはマスクで顔を隠して活動されているアーティストで、これは「人と距離を置くため」だそうです。NMOSDの患者さんや一般の方と同じように、yamaさんご自身もコミュニケーションに関して葛藤や孤独感を体験され、それらと日々戦っていらっしゃる方です。プロジェクトにお声がけした際、自身にとっても価値のある挑戦だと感じてくださいました。

暮井:また、MVには孤独やコミュニケーションの課題、葛藤に悩む様々な人が登場します。これらは視聴者が自分を重ねやすくすることを目指した結果です。最後はプロジェクトのメインコピーでもある「分からなさを、越えていこう。」につながります。
MZ:難病の啓発プロジェクトである以上、様々な配慮が必要だったと思われます。TikTokでのショートムービーに関しての工夫はいかがですか?
森:まず患者さんへのインタビューを元に、ご自身も身近に難病患者を持つnote作家の「きなこ」さんにショートムービーの原作をお願いしました。病名、症状、コミュニケーションの課題など啓発活動に必要な内容を盛り込みつつ、エピソードをご提供いただいた患者さんとのフィードバックを繰り返しながら、全員が納得できるものを丁寧に作っていきました。
そしてそれを基に、若年層に人気のあるTikTokクリエイターの方々に動画制作をお願いしました。持ち味を活かしたアニメやイラスト、実写ドラマで多くの人たちに届くよう、あえてフォーマットに統一性は持たせない形にしました。

森:さらにTikTokクリエイターで映画解説系の発信をされている「しんのすけ」さん、音楽解説系に秀でた「ボカロライフ」さんともコラボさせていただきました。それぞれの切り口で動画やその背景が紹介されたことで、TikTokからYouTubeに飛んで視聴された方も多く、いただいたコメントからも今まで届かなかった層に届けられたと考えています。
総再生数は2,433万回超 コメント欄で交流も
MZ:プロジェクトの成果はいかがでしたか?
暮井:まず定量面では、楽曲MVや制作プロセス投稿、ショートドラマと解説コンテンツなど、施策の総再生数は2,433万回を超えました。これは過去の施策のリーチ数と比べて4倍の数値です。「いいね」やコメントなどのソーシャルシェアは45万件、TikTokにおいては広告認知が+13ptリフトという結果になりました。
定性面としては、多くの患者さんからいただいた感謝のメッセージの他にも、ご家族や友人として患者さんを支えて来られた方、病気を初めて知ったという方からもメッセージをいただくことができました。さらにコメント欄では動画をきっかけに病の当事者/非当事者の隔たりなく会話される場面も見られるなど、SNSの活用で様々なグラデーションの「コミュニケーションの課題」を持つ方同士で交流が生まれました。

MZ:発信側からはアクセスしていない当事者、周辺の方からもコメントなどの反応があったのですね。
暮井:そうですね。従来の製薬会社のプロモーションでは、市場の声をそういった形で聞くことはほとんどありません。プロジェクトの意図や想いが届いていると実感できました。