サービスマーケティングの差別化の秘訣、7Pの考え方
まず、関口氏は、コトラーが提唱する7Pの考え方を紹介。サービスマーケティングにおいては、マーケティングの理論で要素としてよく挙げられるProduct・Place・Promotion・Priceの4Pに、People・Physical Evidence・Processの三つを加えた7Pを重要とする理論だ。関口氏はこれら三つのPが持つそれぞれの意味を次のように説明した。
「Peopleには従業員や顧客の教育訓練といった意味が含まれています。これには、マーケティングのチームを構築していくための企業文化・価値の醸成や、顧客満足度(以下、CS)向上のための従業員のトレーニングなども含まれています。Physical Evidenceでは、サービス利用時に利用者が感じる独自の価値を指します。これには、事業者独自のCXデザインを始め、従業員の服装など本来であれば有形のものをサービスの世界観を作る要素の一つとして考える必要もあります。そして、Processは、サービスを顧客に提供する手段やその過程を考える部分です」(関口氏)
これに対し、風口氏は「この三つのPはJTBでも重要視しているポイント」だと語った。
差別化が難しい無形商材のマーケティングにおいて、“社員”の育成方法や、顧客への“提供価値”の設計、顧客が購買に至る意思決定の“過程”は、強みにもリスクにもなり得るからだという。
では、7Pの理論を活用してどのように戦略策定、企画立案をすれば良いのだろうか。両氏は本セッションのテーマに合わせてPeople・Physical Evidence・Processの3Pにあえてフォーカスし、各社でのベストプラクティスを紹介した。
目に見える道具の活用で目に見えない旅の体験を設計
まず、風口氏は、JTBによる二つの事例を紹介。一つ目は、同社が実施した「ホスピタリティプログラム」だ。同プログラムは、スポーツの観戦チケットと宿泊先、移動に使う交通機関のチケット、宿泊先、滞在先の体験をJTBのブランディングの下で一つのプランとして提供するもの。直近では、ソウルで実施されたMLBワールドツアーの開幕戦でのプログラムを提供したという。
風口氏はこのプログラムが実現した背景にも、3Pの要素があったと語る。まず、Peopleの要素として話すのが、同社が2023年に刷新した行動指針「The JTB Way」の社内浸透だ。
「The JTB Wayは当社グループの社員共通の行動指針で、ベースには『信頼を作る』『挑戦し続ける』『笑顔をつなぐ』という考え方があります。この考え方の浸透のために社員一人ひとりが自主的に考えるワークショップの実施など、積極的に行ってきました。」(風口氏)
このThe JTB Wayの浸透により、顧客に対して提案を行うスタッフから、ツアーに同行するスタッフまであらゆる社員が、The JTB Wayを基準に高い質のサービスを提供することができたという。
次にホスピタリティプログラムを形成するPhysical Evidenceの要素としては、旅マエ・旅ナカでの体験設計がそれに当たる。同プロジェクトでは、現地で民族衣装を着用できる文化体験や、元プロ野球選手をサプライズで招いた野球解説なども用意。そして、これらの体験をJTBブランドで一つにまとめることで、ツアーの最初から最後まで「JTBのツアーであること」を意識してもらう仕組みを作ったという。
加えて同社は、ツアー内で使用するグッズをあえて事前に送付。こうすることで、旅マエからのワクワク感を醸成した。このように、目に見えない旅において、目に見えるものを使うことで体験を設計したという。