組織文化を大きく変えた「顔と実名」
━━立ち上げ当初は、社員の顔出し・実名出しがNGだったそうですね。(メンバーをしっかりと紹介する記事は)まさに「社内のマインドの変化」が表出している状態だと感じます。
そうなんです。昔の記事を見ると顔写真は下半分だけ、名前は「バイヤーMさん」とだけ表示されているのが当たり前でした。
ところが読者からの反響が少しずつ増えるにつれて、社内の空気感もどんどん変わっていったんですよ。
流れが変わるきっかけになったのは、2020年9月に取材したボッシュ株式会社様の記事です。クライアントでもある電動工具事業部の事業部長にお話を伺い、顔出し・実名出しで掲載いただきました。このときは社外の方だから実現したのですが、組織の空気を変えていくチャンスにつながったのだと思います。まさに「制約は機会」でしたね。
━━ひと昔前のマスメディアの感覚では“インターネットは顔出しNG”が一般的でしたが、おそらく社内の「コミュニケーションイメージ」が変わったんでしょうね。カインズは小売業。店頭の接客で毎日顔を合わせているように、ネット上でも顔を出すコミュニケーションができるようになったわけですか?
はい。おかげさまで、そうなっていきました。
━━世の中にはオウンドメディアを「100%SEO目的」に据えている企業も、トヨタ自動車のオウンドメディア「トヨタイムズ」のように企業文化を伝えるメディアとして活用されることもありますが……。
はい。「となりのカインズさん」は、その両方のバランスが取れているのかな、と思っています。
効果測定に欠かせない「定性データ」の重要性
━━効果の測定については、どのように行っているのでしょうか?

「オウンドメディアは玉虫色」といわれるように、目的も幅広く、様々な文脈で効果を語ることができます。効果測定には私たちも日々悩んでいるんですよ。
PV数は追いかけますが、純粋な数字では語られない「定性的な側面」も見ていく必要があると思います。データは取りますが、同時に捨てています。つまり結果の数字自体に、一喜一憂はしません。
その代わり「目標1万PVだったのに、結果は8500PVだった」という事実を見た上で「なぜだろう?」と仮説検証を行います。「こういう人にコンテンツを届けたい」と仮説を立てたのならば「届かなかったのはなぜか」。そこを検証することが、大切ですね。
また、ブックマーク数やXでのコメントなども含めた定性的な情報を、積極的に拾って測定するようにしています。
たとえば、PV数が伸びない割に、お客様からのリアルな声がメールで届いていたり、SNS上で反応があったりすることがあります。これは「良いPV」。記事によっては公開後に、店頭の商品売上が動くこともあります。
反対に「悪いPV」として考えられるのは、炎上です。また、PV数が高い割に内容が薄い記事や、どこかで読んだことがあるような記事も悪いPVですね。PV数はすごい勢いで伸びているのに、SNS上では文脈で語られていない状態も好ましくないと感じます。
このように、数字が直接語ってくれない人の感情や直感、創造性、没頭力をおろそかにすると、オウンドメディアは成功しないのではないでしょうか。
━━数字と、数字が意味するところを見極めながら、運用を続けていくことが大切なのですね。
そうですね。オウンドメディアにおいては「変数と定数」を見極めて運用すべきです。
「変数」とは「変えられる数」。コンテンツ数、記事のタイトル案、公開日時など「努力と行動で変えることができる数」を指します。「定数」はその逆で、何も変えられない部分。変えられないので、無理に動かそうとすると身動きが取れなくなります。
今でも「オウンドメディアをさらに前進させるとしたら、どのようなアクションができるだろう?」と日々、考え続けていますね。
