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【特集】Update:BtoBマーケティングの進化を追う

AIの到来とMQLの終焉、そして新分野の台頭──庭山一郎氏に聞く、世界のBtoBマーケティングの今

「Goodbye MQLs」が日本企業のマーケティングに与える影響

──Goodbye MQLs、そしてシグナルベースドマーケティングが日本企業にどのような影響を与えるのか教えてください。

 2019年にフォレスターは「フォレスターレベニューウォーターフォールモデル」というモデルをリリースしました。これはバイインググループにフォーカスし、そのシグナルをキャッチしてスコアリングする形になっています。

 そのバイインググループは、先ほども話したように、日本語で言うと稟議に近い概念です。昨年バイインググループを研究しているアナリストに対し、私が「これまであなたたちは『日本は意思決定が遅い、欧米だと1人の責任者に権限があるのでスピードが速い』と言い続けてきたが、バイインググループは日本企業の意思決定層が印鑑を押して稟議するやり方に近いと思う。その理解でいいのか」と聞いたところ、「そのとおりだ」と認めたんですよ。

 バイインググループにフォーカスしたマーケティングとは、キーパーソンだけをターゲットにするのではなく、周辺の関係者の動向を見ながらアプローチして商談化していく日本の稟議スタイルに近いものです。もちろん日本の稟議と完全に同じというわけではないでしょうし、MQLからバイインググループへのシフトもまだ研究中のアプローチですが、もう1つ面白いトレンドが生まれているんです。

 今、米国ではCMO・セールス担当VP・チーフカスタマーオフィサーの上に新しくチーフレベニューオフィサー(CRO)を作り、CROがマーケティング・セールス・カスタマーサクセスの3つを見てCEOにレポートを上げる企業が増えています。なぜかと言えば、この3つは連携関係にあるものの、自分のチームの成果を強調するためにほかの2つをけなす傾向があり、レポート内容に整合性がないことが往々にして起こるからなんです。その3つに精通し、管轄するのがCROです。

 そんなCROに求められる職務要件を見ると、実は昔から日本企業にいる「叩き上げの取締役営業本部長」が適合します。叩き上げなので自社のあらゆる製品について熟知し、お客様のほとんどを知っていて、現場の営業はかつての部下、というタイプです。実は今、世界の最新組織は、そんな職務要件を持つ人材を喉から手が出るほど欲しがっているんです。

 とすると「日本企業のマーケティングは周回遅れだったけど、1周回ってトップ集団?」と考えられなくもない。もちろん間違いなく遅れてはいるのですが、ひょっとするとショートカットの道もあるかもしれません。

シグナルベースドマーケティングを取り巻くソリューションが日本に入ってこない!

──それは明るい展望ですね。そこで改めて、シグナルベースドマーケティングとはどのようなものなのかも教えてください。

 明るい展望ばかりではないのですが、それを話す前にシグナルベースドマーケティングについてお話ししましょう。シグナルベースドマーケティングは、MAに入っている1st Partyデータや、パブリッシャーが持っている2nd Partyデータ、それにGoogleやAmazonなどが持つ3rd Partyデータを統合し、「パーミッションが取れている個人」を中心にした様々な人間が発するシグナルをキャッチして、その企業がどのような意図や意思があるのかを読み取っていこうという試みです。

 これは個人情報の取り扱いレギュレーションの厳しい欧州では難しいのですが、米国では様々なデータが統合されてマーケティングに活用されており、何年も前からインテントデータというサービスも主流になっているんです。

 インテントデータとは「意思あるデータ」という意味で、その意思は行動履歴によって測ります。たとえば、単に「クリックした・メールを開封した」だけでなく、「クリックしてその情報をじっくり読み、ホワイトペーパーをダウンロードして、関連情報の動画も最後まで視聴した」となると、そのテーマに関する関心はかなり高く、情報収集をしていると考えられますよね。そんな行動を起こしている個人を特定し、MA内のシグナルのほかMA外のシグナルも重要なインテントデータとして活用するんです。

 ただ非常に寂しい話ですが、日本にはインテントデータのサービスベンダーが来ていません。インテントデータサービスに限らず、多くの米国マーケティングソリューション会社は日本に興味がないんです。その理由の1つとして、インテントデータサービスの基となっているLinkedInが、日本だと就労人口のわずか数%にしか普及していないという問題があります。先進国ではちょっとあり得ないほど低い普及率なんです。

 インテントデータに限りません。たとえばPRMのサービスベンダーは米国だと200〜250社くらいありますが、1社たりとも日本市場には来ていないんです。昔よりも日本市場の価値が低くなり、言語を含めたローカライズにコストも工数もかかる割には回収の見込みの薄い市場になってしまっているんです。

──そうした状況を考えると、日本企業にシグナルベースドマーケティングが根付くのは先になりそうですね。

 国内だけなら確かにそうかもしれません。ただ当社のお客様企業の7割は大手製造業で、海外売上比率が70〜90%に上っているんです。その海外で戦うときに、マーケティングが今のレベルで本当にいいのか疑問ですし、実際に苦戦しています。日本企業は概してPRMのノウハウを持たずに海外で戦おうとしますし、ツールの遅れもありますから、海外の人からすると「日本企業はどうやってマーケティングしているの?」という感覚です。

 冒頭に話したように、米国ではマーケティング分野で激動が起こっていますし、マーケティングはそうした激動期を経て大きな発展を遂げてきました。その変化の1つに日本企業に適合したシグナルベースドマーケティングの流れがある反面、様々な理由でマーケティングテック企業から日本市場がスルーされている状況があるのも事実です。日本企業がそれにどのように追随していくかが課題ですね。

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日本企業は今すぐマーケティングナレッジの育成を

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/09/26 09:30 https://markezine.jp/article/detail/46074

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