これからの時代に必要なFAT思想
有園:LTVの概念を根付かせたい、という思いもありますか。
金澤:ありますね。客単価を引き上げるためだけのアプローチをしてしまうと、その思惑はユーザーにも伝わります。心地よく感じる体験を提供できなければ、人に勧められないサービスになってしまう。そうなると、生活者と深い関係を築けず、広告に頼ることになります。
企業としての理想は、人から人へ体験価値が伝わっていって、企業やブランドのファンを増やすことのはずです。そのためには、やはりユーザー起点で考えることが必要。消費者を取り巻く産業構造も、その点で見直すべき部分があると思います。
例えば、自動車業界では、メーカーが世界観を構築してメッセージを出しても、販売会社の担当者が値引きを重視したアプローチをしてしまうと、ユーザーには伝わらない。売り切ったら終わり、という考え方では、販社側にとっても機会損失になります。企業間でいかにシームレスにデータを活用し、ユーザーをファンにしていけるか。数年先にリピート購入してもらうことを考えないといけません。
一方で、最近はデータ統合による価値創出を重視する企業も増えました。今、経営層の方に会う機会が多いですが、真剣に話を聞いてくれる人が増えたように思います。
有園:私もそう思います。この10年でかなり変わりましたよね。
金澤:変わらなきゃいけないと考えている人と、そういう考えを持った人をトップに選ぶ企業が増えたということですね。皆さん、非常に真摯に耳を傾けてくれます。
そういったときに求められるのは、実行力です。提言だけでなく、施策実行まで責任を持ち、短い期間で結果を評価できることが求められています。
そして、これからの時代に必要なのは、FAT(fairness/公平性、accountability/説明責任、transparency/透明性)です。その思想がないと選ばれない時代がきています。FATを意識したLTVマーケティングを提供することで、業界の新しいスタンダードを作れるのではないかと考えています。
LTVを拡大するために顧客体験はどうあるべきか
金澤:課題を定義する能力がより求められています。クライアントの課題が多様化する中、それを明確に定義できる人はまだ少ないです。それについて、有園さんはどう考えていますか。
有園:私自身がコンサルをやっていたころとは大きく変わっていますが、最近は広告代理店のトップへの取材でも、「課題を発見して解決する能力が必要」という話を聞きます。今後は、潜在的な課題を発掘して、定義して、クライアントが納得したことではじめて予算を預けてもらえるという流れになると思います。ですが、それをLTVに特化して実行するというのは、他の広告代理店では聞いたことがありません。
おそらくキーになるのは「LTVを拡大するために顧客体験はどうあるべきか」という部分。そこから課題が発見できるのだと思います。そのような取り組みを進める中で、特に注力したい業界はありますか。
金澤:特にLTVマーケティングの思想に共感いただきやすい業界は、実店舗を展開する業界です。ただ、どの業界にも求められている思想だと思いますので、そういった企業と一緒に、リアルのデータを活用した施策を進めていければと思います。そのためにも、現場に行って、一次情報を得て、課題を見極めることにこだわって取り組んでいます。経営層に現場の声が届くようにしたい。そういう発想でアプローチしたいですね。
有園:金澤さんと話していると、またコンサルをやりたくなりますね。本日はありがとうございました。