「マーケティングの7P」の構造が変化している
有園:AI活用にも積極的に取り組んでいると思います。マーケティング業界のAI戦略をどう考えていますか。
金澤:マーケティングにおけるAIの影響は、スマートフォンが台頭したときよりも大きくなると思っています。なぜなら、マーケティング戦略の指標である「7P」の構造が変わっていくからです。

金澤:まず「Product」では、商品の作り方が変わります。AIで画像解析して、ユーザーの反応を見ながら、顧客ニーズに沿った形でタイムリーに作れるようになります。「Price」では、ダイナミックプライシングがさらに加速します。「Place」では、流通チャネルが最適化され、最短・最速で最適な売り場に届けることが一気通貫でできるようになります。「Promotion」では、パーソナライズ化が加速。集団に対するアプローチから、1人1人に対してどうアプローチするかを重視するように変わっています。
そして「People」、“人”については、チャットボットやAIアシスタントなど、カスタマーサクセスの領域でバーチャル化が進みます。「Process」では、ビジネスプロセスだけでなく、意思決定プロセスも自動化が進んでいます。最後は「Physical Evidence」、物的証拠。お客さまのフィードバック解析などの場面でAI活用が広がります。
このようにマーケティング活動全体が変わる中で、各社がどこに力を入れるかが問われるようになると思います。

顧客体験を重視した「LTVマーケティング」へ
有園:オプトのビジネスチャンスはどこにありますか。
金澤:広告事業においては、Promotionの領域が主戦場です。その中でも顧客体験、つまり「生活者とどう向き合うか」を非常に重視しています。
以前は、CPA(Cost Per Acquisition/Cost Per Action、顧客獲得単価)が重視されがちでした。しかし、それはクライアントの社内目標を達成するだけで、その先にいるエンドユーザーやクライアントの事業への貢献に密接につながっているとは言えなかった。そこが圧倒的に弱かったのです。エンドユーザー起点で物事を考えないといけないと実感しました。
そこで今、私たちは「LTV(顧客生涯価値)マーケティング」を軸にしています。ユーザーにどのようにファンになってもらうか。そのためにどんな体験が必要か。そういった課題にフォーカスしています。
有園:LTVの考え方は、企業によって違いますね。測定する期間も、1年間の購入金額を基準にする業界もあれば、7年、さらには30年という長期間にわたって測定する企業もあります。
金澤:業種によってLTVの概念も異なりますね。昔はECなど、オンライン上での顧客情報をもとに分析するしかなかったですが、今は実店舗や販促のデータも測定できます。企業によって指標はさまざまですが、重要なのは、クライアントが目指す姿を明確にした上で問題を定義する、というプロセスです。
ECも実店舗も展開している企業の場合、ユーザーが店舗で購入した商品の広告がECサイトで表示され続けたら、ユーザーの心は離れてしまいますが、今はデータによってそれを避けることができます。ユーザー体験を軸に考えると、ECだけでデジタル施策が完結することはなく、販促やリアルのデータとの突き合わせが必要です。