広告産業を健全な構造にすることは民主主義に不可欠
有園:そういった施策について「民主主義にとって重要だ」というお話もされています。どういうことでしょうか。
小林:私は「テクノロジーの社会実装によって、多様でフェアな社会を実現する」ことを政治信条として掲げており、インターネットは個人に力を与える、夢のあるツールだと思っています。だからこそ、自由に意見が言えて、民主的な選択ができる場でないといけません。そこが偽の情報であふれると、正しい情報が伝わらない中で選択や議論が行われることになり、民主主義を壊す可能性があると強く思っています。広告産業を適切な構造にすることは、民主主義を守ることにつながります。
有園:具体的には、プラットフォーマーにどのようなことを求めるのですか。
小林:広告審査の規定が必要ですが、審査方法は国で細かく規定するものではないと思っています。テクノロジーの進化を阻害する恐れがあるからです。どういう審査をするのかを公開してもらい、それができているかチェックできるようにする。規約に則っているかどうかで罰則を執行していく。そういった形がいいのではないかと思います。
有園:透明性を求めるということですね。透明性がないと正しく行われているか判断できません。広告審査の基準やプロセスを公開して、全ての利用者がわかる状態にしてもらうのですね。

データエコノミーで“信頼性のある情報”を増やす
小林:インターネット広告の問題の背景には、アテンションエコノミーの加速があると思います。視聴数が多いほど収益が上がる仕組みです。テレビ局は放送法やBPO(放送倫理・番組向上機構)によってガバナンスを利かせる仕組みがありますが、インターネットにはそれがない。そこが面白さだし、そこから新しいコンテンツやイノベーションが生まれてきたのは事実ですが、詐欺などが氾濫している現状もあります。
まず問題なのは、アテンションエコノミーによって得られる経済的な価値と、違反した場合の制裁の大きさが釣り合わなくなっていることです。そのため、罰則を重くすることは一つの方法です。有園さんは、海外も含めてインターネットビジネスを見ている中で、どう対応するべきだと考えていますか。
有園:詐欺広告に加えて、広告収入のためだけに作られた「MFA(Made-For-Advertising)」と呼ばれるサイトによって、世界的に大きな経済的損失が出ています。このような問題は、シンプルにいえば、健全な民主主義の阻害要因です。ホワイトハウスが「Advancing Technology for Democracy」という文書を出していて、「健全なデモクラシーを達成するために各国政府と協力していく」と書かれていました。もはや業界の取り組みだけでは解決できないのです。
そこで、構造を変える取り組みの一つとして、データエコノミーを活用する方法があると思います。プラットフォーマーや放送局が持つファーストパーティデータを提供してもらって「統合パーソナル情報」を作り、それを使える事業者を特定する。データ提供については、データの権利を持つユーザーに還元する「データ配当金」の仕組みを作るのがいいと思います。
そうすると、放送局や新聞社、出版社がそのデータを活用してターゲティング広告を配信できるようになり、収益が上がりやすくなる。免許事業者が広告を配信することになるため、詐欺広告などが出てくるリスクを軽減できます。中立で公正な情報提供を行う、違法コンテンツを許さない空間を官民が一体となって作るのです。
小林:正確な情報を流せる企業などのコンテンツがインターネット空間に出てくるようにするアプローチですね。
有園:信頼性のある健全な情報を集めた場を整備することが重要です。インターネット上には低品質なコンテンツがあふれています。裏付けされた質の高い情報がユーザーにしっかりと届き、それによって収益が出るようにしないといけません。