ネコ型配膳ロボットから考える「テクノロジーと体験の接着剤」としてのゲーミフィケーション
MZ:今、マーケティングでゲーミフィケーションに注目すべき理由は何ですか。
伊藤:かつては、アプリを出せばユーザーがとりあえずダウンロードしてくれる状況でした。しかしデジタル上にコンテンツや情報があふれている昨今は、見向きされないケースも少なくありません。プロダクトの差別化が難しくなっている中、自社のプロダクトを選んでもらうためには、ユーザーを夢中にさせて「好きだから選ぶ」という行動につなげる仕掛けが必要です。
後藤:今後、AIやIoTといったトレンドと、ゲーミフィケーションを掛け合わせる発想もカギになるでしょう。マーケティング領域でも活用できるブルーオーシャンになり得ると見ています。
たとえば、タブレットで注文できる飲食店が増えていますよね。ここにゲーミフィケーションでエンタメ性を付与すると「こんな商品があったのか(認知、関心)」「次は、この商品を買ってみたい(継続性)」など、ユーザーの態度や行動変容を促せます。
伊藤:ゲーミフィケーションは、「テクノロジーと体験の接着剤」と表現できますよね。技術だけでは「便利になった」という事実があるのみで、生活者の体験や感情と分断されているケースが少なくありません。
今はすっかり定着した、ファミレスの「ネコ型配膳ロボット」も、ロボットという技術に猫の顔を加えたものです。これによりユーザーに「かわいい猫のロボットを見たい」といった感情をかき立て、ファミレスに行きたくなるという態度変容を導いています。
後藤:現在、ネコ型配膳ロボットはすべての来店客に同じ台詞を言って回りますよね。これが、将来的に一人ひとりに合わせてカスタマイズできる仕様になったらどうでしょうか。顧客データや購入履歴と紐づけて、顧客ごとに違った性格にしていくこともできそうです。
MZ:ファミレスで、注文などを通して猫の配膳ロボットを育成する「ゲーム」が実現できるわけですね。
実はレガシーな企業と相性がいい
MZ:ゲーミフィケーションと相性がいいのは、どんな企業ですか。
伊藤:実は、レガシーな会社や一次産業に近い業界の相談が多いです。反対に、IT系は少ないですね。
成熟している業界ではシステムや仕組みが確立され、既に最適化を実現しているため、次のブレークスルーがなかなか生まれません。業界ルールなど制約もある中で、ゲームの要素を入れて新たなブレークスルーを図る取り組みは、試しやすいのかもしれません。
当社と英語教育のゲームを共同で作ったベネッセさんも、「進研ゼミ」という確立されたビジネスを長年展開されています。そんな中、ゲームばかり好む子供にアプローチする切り口がない課題をきっかけに、開発に至りました。
この他、電気・ガスなどインフラ系や、金融業界も挙げられます。たとえばみずほ銀行さんは、当社と合弁会社「みずほポシェット」を設立し、金融教育に取り組んでいます。
MZ:ゲーミフィケーションは、どういった層に効果的でしょうか。
後藤:まず、ゲームに強い関心のある若年層は、設計しやすく訴求もしやすいですね。とはいえ、今はおよそ50代までは子供時代にゲームを経験してきた世代です。若者に限定して効く施策というわけではありません。
一方で国内人口の大きなボリュームを占める高齢者は、ゲーム黎明期より前の世代、ゲームにあまり触れてこなかった層です。しかし「ゲーム(遊び)は楽しい」という感情は、どんな年齢の方でも持っています。この世代への効果的なアプローチはゲーミフィケーションの課題ですね。
伊藤:福祉関連におけるゲーミフィケーションの取り組みもあるものの、方法論が限られますよね。アナログなカード・ボードゲームを介護施設で使うケースもありますが、若者と同じようにスマホを駆使した施策は難しいでしょう。