世界に向けて発信する、日本の新しい文化としてのコンテンツ
この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル』Vol.44, No.1の巻頭言を、加筆・修正したものです。
『マーケティングジャーナル』は、本号冒頭の「編集長より(PDF)」にて宣言されたように、和文誌から和英混載誌に生まれ変わりました。掲載された英文論文の多くは、和訳版の付録付きです。そうでない場合にも、AI翻訳を活用していただき、容易に和文化することができます。MarkeZine読者の皆様には、本連載、ひいては『マーケティングジャーナル』の変わらぬご愛読をいただけますと幸いです。
さて、全世界の読者に向けて『マーケティングジャーナル』が発信するために、最初の特集企画として選定されたのは「コンテンツビジネス」です。「コンテンツ」とは、一般的には「メディア」という入れ物に入れられて提供される創作物のことです。
たとえば、MarkeZineの記事やその他のWeb上の情報はコンテンツの一種であり、その場合のメディアは「Web」です。おもしろいことに、Webコンテンツの中には、リアルな新聞や雑誌というメディアを介して提供されるものもあります。Webコンテンツは無形ですが、新聞や雑誌というと有形です。
小説や漫画もコンテンツです。週刊誌や月刊誌(というメディア)に掲載された後、単行本(というメディア)として再編集されて発売されます。ヒット作になると、アニメ化や実写ドラマ化、つまり、メディアだけでなくコンテンツそのものにも変更が施された上で、テレビやネットや映画館(という別のメディア)で放映/上映されます。
人気のコンテンツは、メディアから一人歩きすることもあります。コンテンツにゆかりのある場所が「聖地」と呼ばれ、その場所がどこかと「探訪」したり、その場所だと確定した場所に「巡礼」したりする行動は、コアなファンのみならず一般の観光客にも見られます。
このように形を変えて人々を魅了するコンテンツは、従来のマーケティング研究やマーケティング実務の単なる応用では済まない局面を多く抱えています。日本は、古典からポップカルチャーまで、世界に対して発信力を有するコンテンツの産出国ですから、コンテンツビジネスのマーケティングを真剣に考えなくてはなりません。
原作小説ファンと映画ファン、どちらのe口コミをケアすべきか
既に述べた通り、人気作品は形を変えて幾度か売り出されることがあります。たとえばヒットした小説が映画化される時、そこには、小説ファンと映画ファンの2種類の消費者が生まれます。
両者の相違を分析したのが、立命館大学准教授の菊盛真衣先生と石井隆太先生の英文論文「小説原作映画におけるeクチコミの発信 ― 原作ファンと原作未読者の比較 ―(PDF)」(※和訳PDF付き)です。
彼らによると、小説ファンは、映画ファンより、映画化されたコンテンツを自我と強く結び付ける傾向があり、肯定・否定を問わず盛んにe口コミ(オンラインの口コミ)を発信して、自分の映画評論の知識や能力を披露したり、他者の映画選択を援助したりしようとします。それゆえ、原作が存在する映画のマーケターは、原作ファンの目にかなう映画を作るだけでなく、映画ファンと違って映画ファン・コミュニティ・サイトへのe口コミ投稿に不慣れな彼らをうまくコミュニティに誘導して、口コミを容易に投稿できる環境を整備するべきでしょう。