複雑化するリテールメディア活用の課題とは?
──リテールメディアの活用では、現在どのような課題があるのでしょうか。
辻森:リテールメディアの認知と活用は急速に拡大していると感じますが、それにともないメーカー企業、小売企業双方の課題も多様化しているように思います。
辻森:メーカー側では、リテールデータを用いたデジタル販促による配信の効率化やリテールへの送客数増加といった成果を喜ぶ反面、「送客先の店舗での購入率や単価を上げたい」というニーズも聞かれます。また、「リテールデータなどのデジタル領域と小売店舗とが分断していて、施策効果を最大化できない」といった課題も見えてきました。
──つまり、店頭売上への貢献とデータ活用に課題があるということですね。
辻森:さらに複雑な課題もあります。それはリテールメディアに対する知識・理解の差がメーカー社内に生じていることです。メーカーの営業部門、そしてマーケティングや宣伝部門との間で差があるのです。
──具体的にどのような差が生じているのでしょうか?
藤田:たとえばメーカーが店舗の売場でキャンペーンを展開する場合、「それは販促活動だから、営業部門の販促予算で実施すべき」という長年の商習慣に基づいた暗黙の了解が、マーケティング・宣伝部門にありました。
ただ、リテールデータやメディア、店舗を活用した多面的な施策になると、これまでの販促活動とは異なります。広告配信も絡みますし、購入者のインサイトに基づくプランニングなど、マーケティング領域との関わりが生じるためです。
辻森:逆にマーケティング部門がより深くリテールメディアに関与する中で、営業部門のKPIとのすり合わせが難しいケースもあります。そのため予算が付きにくいこともありますし、施策によってどちらに力点を置くべきなのか、判断が難しくなるといった課題が出ています。
──小売事業者側の課題についてはいかがでしょう?
辻森:自社のオウンドメディアの拡充やソリューション開発を進めているものの、その活用にあたっては、やはり社内共有やコミュニケーションに時間がかかり、浸透しきっていない状況があります。また施策がオンラインとオフラインにまたがっており、関与する部門も多岐にわたることで、調整に苦労しているケースが多いと思います。
課題解決の鍵は“店頭とデジタルの接着・拡張”
──どうすればその状況を解決できるのでしょうか。
辻森:成果最大化の面では、デジタルと店頭が分断している状況を変える、つまり「デジタルと店頭との接着・拡張」を実現し、オンオフの総合施策に取り組むことが重要なポイントとなります。
辻森:また予算の捻出・施策の設計にあたっては、メーカーの営業部門とマーケティング部門の連携が重要です。しかしながら、両者の連携を働きかけるにも、リテールデータ・メディア・店頭という複数視点で話せる人材が不足しているように見えます。そのため、人的リソースや知見の面で客観的にフォローできる外部企業の協力が必要になってきます。
──その外部企業に求められる要件とはどのようなものですか?
辻森:メーカーと小売、双方の課題と構造を理解して、適切なアドバイスを示せることです。そして店頭やデータについて熟知しているだけでなく、小売事業者側の組織方針やオペレーションの違いに対する理解も必要です。そのような理解があった上で「店頭で現実的に実施可能な施策を提案・実現していく」という見極めも必要になります。
そして、店頭とデジタルの接着による現実的なアイデアを、メーカー側の適切な部門にきちんと伝達できること。これができて初めて、すべての関係者が同じ視点と問題意識で、オンオフの総合施策を実行できるようになると思います。