インサイトは創造するものではなく、発掘するもの
プロジェクト開始から3年が経過した現状を、北原氏は次のように語る。

「観測員は、突然訪れた街で、道を歩いている人にインタビューするといった過酷なミッションにも挑んできましたが、現在のやり方には手ごたえを感じています。この身体性リサーチを体系化したことが成果です」(北原氏)

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身体性リサーチの基本は、「N=1」を徹底的に掘り下げることだ。具体的には会社から離れ生活者と話をすることが中心となる。インタビューで得られた情報は「夢中ヒントシート」を使って整理し、そこからインサイトを抽出していく。
北原氏は「インサイトは創造・創作するものではなく、発掘するもの」と語る。発掘したインサイトは、対比や差分の視点を取り入れながら、さらに磨き上げていく。
3年間の成果として、見えてきたインサイトとは?
くらしの夢中観測所のリサーチから、クラシエは多くのインサイトを得ている。特に、「夢中」を入口にすることで、生活者の欲求や価値観だけでなく、その人の暮らし全体が見えてくることは大きな発見となった。北原氏は夢中を「暮らしの満足度を中庸に保つためのバランサー」と表現する。
仕事、家族、そして自分の時間など、それぞれの生活者が大切にしている要素に応じて夢中の対象を見いだし、夢中になることで生活のバランスを取っていることが明らかになった。
たとえば、仕事で失敗を避けたいと感じている人が、プライベートな時間に新たな挑戦を増やして自分の対応力を試すことに夢中になっていたり、十分に”イクメン”なのに世の中の“イクメン”イメージに縛られ疲れた男性が、自分ひとりの「夢中の時間」でストレスを発散していたりなど、様々な夢中の形が確認されている。
また、複数の「夢中」を持つ生活者ほど、生活のバランスをうまく保っており、暮らしの満足度が高いこともわかってきた。このような発見は、生活者に対する新たな視点であり、観測所の重要な成果である。

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北原氏は今後、この身体性リサーチをさらに深化させ、生活者との価値共創を一層進めていく考えだ。
「まだ道半ばですが、マーケティングや企業活動において、『夢中』が新たな切り口になる可能性を大いに感じています」と力強く語る北原氏。2024年度は、夢中から生まれる潮流の分析にも挑戦するという。今後の活動にも注目したいところだ。