マーケターが制作チームとやり取りする際のポイントとは?
MZ:マーケターが制作チームと要件やゴールなどを共有して、同じ目線でコミュニケーションを行うには、どのようなことが大切なのでしょうか。
奥田:まずはマーケター自身で一度考えてみることが大事だと思います。そうすると「やっぱり難しいな」と感じるはずです。そこでもう一段深く考えて、素人考えながら勇気をもって意見を出してみる。また、自分なりの仮説を持って、それを他のチームメンバーの仮説とすり合わせていく。そうすることで、自らもチームの一員になることができると考えています。これは制作だけではなく、普段の仕事でもいえることだと思います。

2013年にリクルートに入社後「ゼクシィ」のデジタルマーケティングを5年間担当。その後、事業開発や経営企画を経て「スタディサプリENGLISH」を5年間担当し、現在は新規事業開発の担当マネージャーと自動車領域の部長を務める。
MZ:クリエイティブディレクターや監督の立場から見て、制作現場でのコミュニケーションを円滑に進めるためにマーケターが持つべき考え方などがあれば教えてください。
川名:まさに奥田さんがおっしゃるように、一度自分で考えてみることは本質的だと思いますね。もちろんプロの領域はありますが、「マーケターなので表現のことはわかりません」ではなく、本気で考えてみることで、監督やクリエイティブメンバーと同じ目線で見えてくるものがあると思います。それが、自分たちとしても意外と新鮮な指摘だったりすることもあります。
それぞれの立場から必要な表現を真剣に考え合うことが、ワンチームとして作業するには大切なんだと思います。
小栗:野球でたとえるなら、「アウトにはなりにくいけど長打は出にくい」のが調査ドリブンです。クリエイティブ表現で長打を狙うなら、感覚的な部分も必要ですよね。その際、マーケターも私たちも、自分の立場だけで考えていると議論が平行線になってしまいます。そんな時こそ互いの視点を想像して、一歩踏み出すことが重要だと思います。
「骨太な仮説」があるからこそ、クリエイティブの“珠玉の1案”につながる
MZ:「スタサプENGLISH」のCMクリエイティブ制作において、重視したポイントを教えてください。
小栗:最新のCMではキャストが新しくなったので、まずは目立つことを大事にしました。「スタサプENGLISH」はブランド自体が確立されてきていると考えられるため、今後は「ブランドの顕在さ」を出し続けることが欠かせないと考えています。「常にメジャーである」という認知を獲得するための見せ方を意識し、よりブランドを定着させるわけですね。
川名:企画する側として、こだわりが多い奥田さんたちの期待にレベル高く応えたい、というクリエイティブの意地はもちろんありますが。その上で、通常Vコンはプレゼン用に2、3本作るものですが、「スタサプENGLISH」では調査用に5~7本も作ります。そのため、それぞれのVコンに狙いや仮説をいかに明快に振り分けるかがポイントになります。
奥田:仮説の強さが十分であるかを重視していました。調査に入れれば何かしらの結果が出力されるものですが、その結果自体が意味をなすものなのかは、入れた仮説の質に依存します。微妙な案を複数入れても、微妙な案の中では良いものが出てくるだけです。調査に入れる1案1案に、調査する価値のある「骨太な仮説」を入れるからこそ、そこから珠玉の1案を発見できます。
仮説の強さについては、第3回でお伝えしていた「要件から考える」、つまりまず仮説が超えるべき水準=骨となる要件を規定することが、骨太なクリエイティブ仮説を作る基礎になります。