届かないメールに、時間と労力を費やしている可能性
──まず田中さんの業務内容・ミッションについて教えてください。
構造計画研究所は、米国発のクラウド型メール配信サービス「Twilio SendGrid(以下、SendGrid)」の正規代理店として、日本国内の事業者向けにSendGridの導入支援やノウハウの提供を行っています。私は2019年に入社後、2021年からSendGridのマーケティングを担当しています。
──メールマーケティングは、現在の企業のマーケティング活動においてどのような役割を果たしているとお考えですか?
古くからある手法ですが、メール通数は年々増加しており、現在も世界中で広く活用されている有効な手段の1つだと考えています。メールアドレスはほぼすべての人が持っていますし、他のチャネルと併用することで幅広い層へのリーチが可能です。1通あたりの送信コストも低く、ネット広告やSNS広告と比較してもROIの高い施策と言えます。さらに、顧客の属性や行動履歴に基づいたパーソナライズ配信も容易で、開封率やクリック率などからPDCAを回しやすい点も強みです。
──メールマーケティングにおいて現在、企業が直面している課題は何でしょうか?
メールのコンテンツ制作に悩む担当者の方も多いですが、着目すべきは「メールの到達率」です。せっかく作成したメールも、受信トレイに届かなければ意味がありません。「メールが確実に届いているか」も改めて確認いただきたいポイントです。
正当なメールでも6通に1通は届いていない
──メールが届かない原因には、2023年10月にGoogleが発表(2024年2月に施行)した送信者向けガイドラインの改定が挙げられるのでしょうか?
ガイドライン改定も1つの要因ではありますが、実はそれ以前から、メールはただ送れば届くというものではなくなっていました。Validity社のレポートでは、スパムではない正当なメールでも約6通に1通は受信トレイに届いていないというデータが示されています。
メールの通数やスパムメールの増加にともない、メールボックスプロバイダは受信トレイを守るための対策を強化してきました。今回のGmailのガイドライン改定は、これまで推奨扱いだったメールの送り方が必須要件となり、要件を満たさない送信者のメールは届かなくなる可能性を明示したことから、大きなインパクトがあったのだと考えられます。
──その要件とは、どのようなものだったのでしょうか?
1つ目は、「自分が正当な送信者であり、安全な方法でメールを送信している」という技術的な要件を満たすこと。2つ目は、受信者が必要としている読まれるメールを送る、不要なメールの配信解除を受信者が簡単にできるなど、“送信者としての適切な振る舞い”をすることです。
具体的にGmailの新ガイドラインでは、ワンクリックでの配信停止機能や、迷惑メール報告率の低減などが求められます。
長い間メールが読まれていなかったり、受信者の迷惑メール報告率が高かったりすると、送信者の信頼度が低下し、迷惑メールフォルダへの振り分けが増加します。つまり、メールの到達率が低下するということです。各メールボックスプロバイダが目指しているのは、「受信者にとって快適な受信トレイ」です。Gmailに限らず、Yahoo!やMicrosoftなども含めたあらゆる宛先において必要な観点であることに留意しましょう。
──実際にどれぐらいの企業がガイドラインに対応できているのでしょうか?
2024年7月に実施したSendGridユーザーへのアンケートでは、メールマーケティング担当者のうち6割以上が「すべての項目に対応済み」と回答する一方で、2割近くが「対応状況が自分ではわからない」と回答しました。
ガイドラインでは技術的な側面が注目されがちですが、マーケターの方々が意識すべき“送信者としての適切な振る舞い”の点では、まだまだ改善余地があると考えられます。
──Xで「Gmail 届かない」と検索すると、イベントや有名アーティストのライブの当落メールが届かないという声が見受けられました。
普段からメールのやり取りをしていないアドレスに、突然大量のメールを一斉送信したことでスパムメールと誤判定されたのかもしれません。チケットの当落結果メールは同時刻に大量のアドレスに送信されることが多く、まさにスパムメールの送信パターンと同じですからね。普段からメルマガなどを配信し、送信元のメールアドレスを「信頼できる送信元」として認識させておくことも重要です。