右脳と左脳を切り替えながら「世界観」を作り上げる
2つ目に、【世界観を作る】プロセスでは、「ワクワクするかどうかを右脳でチェックすること」を大事にしています。引き出した魅力を、左脳で論理的に積み上げていくと、時に凡庸な世界観になってしまうことがあります。そのため、一旦理屈から離れて、パッと見た瞬間に本能的に気分が高揚するかどうかをチェックします。右脳と左脳を定期的に切り替えながら作ることで、骨太な良いブランドになっていくと考えています。
3つ目に、「細部まで妥協しないこと」も非常に大切にしています。先に挙げた2つは、前半のプロセスにおいて大事なことでしたが、最後に一つ一つアウトプットに落とし込んでいく際、細やかな部分まで丁寧に詰めることが、ブランドの説得力につながると考えています。
たとえば、 パティスリーGIN NO MORIの店舗デザインは、「ここにしかない、不思議な銀色の森」を作るために、徹底的にこだわっています。
お店のシンボルである銀色の木には、クッキーの材料にも使われている“どんぐり”の形をしたライトを特注で製作し、灯しました。壁紙も、リスのパティシエや植物などを図案化したオリジナルの柄で作成しております。また、木々から生えている植物も、様々な草花を組み合わせ、“ここだけの森”を表現しています。

また、ブランド初のティーウェアを作った際は、繊細で難しいデザインを実現できる、高い技術を持ったパートナーさんが不可欠でした。そこで、陶磁器工房をリストアップし、クライアントさんと車で一軒一軒訪れ、職人さんを探しました。
120年近く美しい陶磁器を生み出し続けている老舗、ノリタケさんが「挑戦しましょう」と言ってくださった後も、試練の連続でした。深いブルーを出す方法や、余白をなるべく作らない図案の入れ方、リスの造形、銀の枝の光沢を増すやり方など、試行錯誤を重ねました。ノリタケさんの技術力のおかげで、とうとう2年越しに、理想の食器を完成することができました。
「ブランドらしさ」の見つけ方
──一つ目のクライアントの「らしさ」は、どのように見つけるのでしょうか? 意識していることはありますか。
最初は整理しないで、ピンときたキーワードを逃さず並べ、机の上を散らかすように構想します。
そのあとのプロセスは、演劇の役作りと似ています。まず、想像力を駆使して、そのブランドや商品の「社会の中での役割」を見極めます。演劇でも登場人物によって役割が異なりますよね。ブランドや商品も、競合と比べてどんな役割を担っているのか想像を巡らせると、存在意義が見えてくるのです。
そして、個性の研究も大切です。演劇では役作りの手がかりは台本だけ。どんな過去があったのか、どんな歩き方・話し方をすればこの役らしいのか、といった余白を考える必要があります。クライアントさんに対しても同様で、その企業にどんな歴史があったのか、なぜこの理念なのかを観察して、個性を引き出すのです。