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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

ダイバーシティから考える、新しいマーケティング・コミュニケーションの視点

インクルーシブデザインを事業として成立させるには?フェリシモ「オールライト研究所」が体現するDE&I


オールライト研究所から生まれた2つのプロジェクト

白石:オールライト研究所が展開している事業やターゲット層を教えてください。

筧:オールライト研究所ではこれまで2つのプロジェクトを実現しました。1つは、裏表も前後もない服を開発する「裏表のない世界」というプロジェクトで、Tシャツ、ダブルガーゼのパンツ、靴下を作りました。もう1つは、片手だけで簡単に着たり履いたり装着できるファッションアイテム「one hand magic」です。

 どちらも、暮らしのなかで本当に困り事があるマイノリティの方々に使っていただくことはもちろんですが、事業性を担保することを考え、そうした方々だけでなく間口を広げてアプローチしていくことを考えています。

 one hand magicでいうと、障がいや麻痺などで片方の手が使いにくい方を対象にしているのですが、そこだけに絞るとビジネスとして難しい面が出てきます。たとえば、1つひとつの価格が非常に高くなってしまうといった点ですね。そこで、「小さいお子さんがいて働いていて、時間がなくて困っている親御さん」や「とにかく多忙で片手で簡単に脱ぎ着したい方」「高齢で手を動かしにくくなってきた方」などに間口を広げることにしました。

 ただ、間口を広げて作るとはいっても、やはり本当に困っている方にしっかり届けたいという気持ちはあります。そのためone hand magicでは、片麻痺の方、筋ジストロフィーの車いすユーザーの方、2名の方にアドバイザーをお願いし、サンプルを送って意見をいただきながら検討を重ねました。

白石:障がいのある当事者の方はもちろんのこと、全ての方が抱える日々のマイノリティなシーンを包含することを大切にされてきたんですね。

筧:そうですね。福祉・介護用の商品はありますが、一般の人も含めて様々な方が使えるまさにインクルーシブ(包含)なものを目指しています。

Amplify Asia 白石愛美氏
Amplify Asia 白石愛美氏

誰もが使いやすいインクルーシブなデザインを実現する

白石:第1弾となる「裏表のない世界」から、今回の「one hand magic」が誕生した経緯を教えてください。

筧:オールナイト研究所のWebサイトでは、「お客様へのアンケート」で様々なお困りごとのご意見を募っているのですが、そのなかで「片手でも着られる洋服が欲しい」「片麻痺なので左右のバランスが崩れて下のシャツが見えて困っている」などの意見をいただいたのです。そこで企画会議で「片手でさっと着脱できる」だけでなく「素敵なお出かけコーデ」を作りたいという案が出ました。

 片手で着られる洋服というと、ご高齢の方や障がい者の方が着るジャージタイプのものがあります。でも、キレイめで価格的にも手に取りやすい商品はなかなかありません。すると、小さいお子さんがいる現役のママ社員も「私にもそんな商品があればいいな」と話が広がり、実現に至りました。

白石:「裏表のない世界」はカジュアル系で「one hand magic」はキレイなおしゃれコーデと、選択肢が広がった感じがしますが、そうした狙いもあるのでしょうか?

下久保:おっしゃる通りで、「裏表のない世界」は、リラックス感のある素材の商品なので「家着にするかも」という正直なご意見があったのです。そこで「次回はどういう路線で行くか」という話になった時、「お出かけ用にこれが1枚あれば安心する」というようなキレイめな洋服を提案したいと考えて、このシリーズが生まれました。

長谷川:実は「裏表のない世界」の時も「家のなかで着るパジャマ」という話がありました。しかし安易な企画に寄るのではなく、チャレンジしがいがあるところを目指そうということで取り組んだのです。

 今回も、「麻痺のある方が簡単に着られる洋服をどのように一般の方に受け入れてもらうようにしようか」と考えた時、「より簡単に、より気軽におしゃれできる」という点が着目ポイントになると考えました。そこで「小さなお子さんがいる親御さんは朝の準備は大変だ」という話が出て、「簡単におしゃれできる世界を目指す」というゴールが見えたんです。

白石:なるほど、商品作りでこだわった点や特徴についても教えてください。

筧:片手で着られるコートやブラウス、レースアップシューズのほか、片手で出し入れできるバッグ、ネックカフやイヤーカフなどのアクセサリーを展開しています。このプロジェクトは「おしゃれ」にこだわったので、着脱しやすさはもちろん、色にもこだわりました。メインの企画を担当した下久保さん、詳しくお願いします。

下久保:最初は汎用性の高い黒のアウターを構想したのですが、今回は着る方の“ファッションを楽しむ心”を一目でわかるものにしたいと考え、あえてブルーグレーというカラーと、きれいめな印象のメルトンライクな素材をセレクトしました。

 一般的な洋服の作り方と違う部分は、フロントに使っているマグネットボタンです。実はマグネットボタンはあまり洋服に使うことがありません。理由は、検品の工程が増えてしまうので量産品の生産にはあまり向いていないからなのです。

 逆にいえば、量産品の場合、いかにスムーズな工程で作れるかということが1つのポイントになります。今回はコストがかかっても、マグネットボタンを使用することに大きく意味があると考えたので、使用することにしました。

白石:生産過程にも配慮して、様々な工夫をされていたんですね。実際に障がいを持つ方にも意見をいただいたとのことですが、他にはどのような方から意見を募ったのでしょうか。

筧:社内に小さいお子さんを持つママ社員が多数いるのでいろいろ話を聞きました。双子の育児に忙しい社員に「どういうバッグが欲しいか」「ボタンのシャツは着るか」といったことをヒアリングしましたね。

長谷川:コートについては、車いすを利用されている方のご意見を参考にしました。その結果、スリットを入れることで動きやすくしたり、丈を短めにすることで、座った状態でも使いやすいデザインに仕上げています。実は、この工夫が自転車に乗る際にもちょうどよい丈感となり、自転車通勤をされる方の評判が良かったですね。

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新たな提案を市場に広げる、マーケティング・コミュニケーションの工夫

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この記事の著者

白石 愛美(シライシ エミ)

コーポレートコミュニケーション コンサルタント
株式会社Amplify Asia 代表取締役
株式会社YUIDEA 社外CMO

WPPグループにて、リサーチャーとして主にマーケティングおよびPR関連プロジェクトに従事。 その後、人事コンサルティング会社、電通アイソバーの広報を経て、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートする株式会社Amplify Asiaを立ち上げる。2024年10月より、YUIDEAの社外CM...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/12/26 09:30 https://markezine.jp/article/detail/47595

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