サステナブルな成長を目指して上場
有園:以前から、本連載で今田さんとお話ししたいと思っていたので、TNLメディアジーンの上場のタイミングでお声がけしました。本日は、今田さんのメディアビジネスへの思いをお聞きします。まずは、上場の背景から教えてください。
今田:テクノロジーで世の中がどんどんアップデートされる中で、メディア企業が単体で生き残るのが難しい時代になりました。メディアを運営するために様々な収益モデルを考え、実践しなければならないため、1社だとコストに見合わなくなってきています。
欧米ではメディアの再編・統合が常に起きていますが、日本はまだ固定化されています。どうすればスケールを大きくして成長を続けられるか、ずっと考えていました。
その方法の一つが、台湾のメディア企業との統合です。TNLと一緒になることでスケールメリットを出せますし、これを足掛かりにして海外に進出できると考えました。そして、海外のメディア企業やテック企業とグループを形成し、メディアビジネスをサステナブルに成長させていく手段として、上場による資金調達に踏み切りました。ようやくスタート地点に立ったと思っています。

TNLメディアジーン 社長・COO/メディアジーン 代表取締役 CEO 今田素子氏
読者目線を大事に、信頼されるメディアでありたい
有園:これから目指していくメディアの在り方とは、どのようなものですか。
今田:信頼されるメディアであり続けたいと考えています。そのためには、ビジネスをしっかりと回していくことが必要です。読者の目線を大事にして情報を届けていくために何ができるか、常に考えています。
有園:私も記事を書くので、「読者目線」は意外に難しいと実感しています。どのようなことを心掛けているのですか。
今田:「知っていることを教えてあげる」という態度で一方的に情報を伝えるのではなく、もっと読者と同じように物事を捉えて伝えるようにする、ということです。それをずっと大事にしています。
有園:そういうスタンスはこれからも変わらないのですね。一方で、サステナブルに経営していくためにグローバルで事業を大きくしていく、ということでしたが、メディアが生き残っていくためにはグループ化が有効なのでしょうか。
今田:ビジネスの方法論を共有できる意味でも有効だと思います。再現性が高くなり、効果的な方法を繰り返していくことができます。スケーラビリティのメリットはそこにあると思います。
ただ、メディアの数を増やすことが目的ではありません。当社が運営するのは、読者の興味・関心に基づいて丁寧に情報を伝えるメディアであり、規模がものすごく大きくなることはありません。だからこそ、ベースとなる仕組みを共通化しないと生き残れないのです。
また、テクノロジーの進化や読者の視聴態度の変化に合わせてアップデートしていく必要があるため、最新情報を得ることが必要です。その意味でも、海外で事業展開することは重要です。これまでは海外メディアのライセンスを買ってきましたが、これからは自ら外に出ていきたいと考えています。AIの進化によって、言語の壁も乗り越えやすくなりました。AIをチャンスと捉えて挑戦していきたいです。