戦略策定のステップ:定量調査→1st Party分析→3rd Party分析
続いて木村氏は、戦略策定の具体的なプロセスを説明した。市場分析(3C分析)や製品戦略(4P/6P分析)を通じて現状を分析し、JQ CARDにおける課題と機会を整理した後、ブランドパワー分析を行ったという。

ブランドパワー分析とは、「ブランド想起」と「ブランドイメージ」の2つの要素からなるブランドパワーを客観的に分析する手法のこと。ブランドに対する“顧客認識の状態”をBrandism独自のメソッドをもとにスコア化したものである(参考書籍『ブランド・パワー』)。
「会員制の商品・サービスでは、1st Partyデータを多く持っているため、そこから既存顧客向けにCRMの施策をされるケースが多いと思います。しかし、JR九州では、カードの既存ユーザーだけではなく、非保有ユーザー、つまり新規顧客に対するアプローチもしっかりと行っていきたいという意向がありました。そこで私たちは3ステップでの分析を進めることにしました。はじめに、アンケート調査をメインとする定量調査を実施しブランドの状況を把握。次に1st Partyデータを分析し、現在の顧客の解像度を高める。そして3rd Partyデータを活用し、新規顧客となりうる層について分析するというステップです」(木村氏)
この分析から得られた気づきについて、山田氏はこう語る。
「JRという言葉は広く知られていますが、JQ CARDとなると認知度が大幅に下がります。『サービス名称が変わるだけでこんなに知られていないのか』という気づきがありました。また、駅ビルの商業施設でJQ CARDを大々的に告知しているのですが、駅ビル利用者でも知らない方が一定数いることも重要な気づきでした。
加えて、一般的にクレジットカードはポイント還元が魅力の一つですが、JQ CARDの場合、『お店で割引がある』『切符が安く買える』など、特有の利用理由があることもわかりました。カード会社によって利用動態に違いもあるため、それらも踏まえて、新規・既存両面に対してROIをより高める施策を組み立てていく必要があると感じました」(山田氏)
戦略の優先順位をどう決める?
一通りの分析を終え、次のステップである戦略構築では「誰に」「何をしてもらうか」という観点から顧客を詳細にセグメント化した。
既存顧客にはJQ CARDをより頻繁に利用してもらうための戦略が、未顧客にはJQ CARDを認知してもらい契約に繋げるための戦略が必要となる。つまり、戦略はJQ CARD保有ユーザー(既存顧客)とJQ CARD未保有ユーザー(新規顧客)で分けて考えなければならない。

具体的には、既存顧客については、6種類あるカード、および年間使用回数別にクラスタリングを実施。その上で、ボリューム(人数)、ブランド価値、実現可能性などの軸から判断し、獲得の優先順位を設定したという。
新規顧客に対しても同様のプロセスを適用しているが、セグメントの切り方が異なる。九州在住者を中心としつつ、JQ CARDの認知有無でセグメントを分け、そこから駅ビル利用頻度、新幹線利用頻度、ポイント活用傾向、九州内の出張頻度などでさらに細分化した上で優先度を判断する形だ。
このプロセスで得られたことを山田氏はこう話す。
「自社の持つ1st Partyデータだけでなく、3rd Partyデータやアンケート結果を活用した点が特に重要でした。特に未保有ユーザーについてはこれまで直接的なデータがなかったため、なんとなくのイメージでターゲットを想定していました。しかし今回はデータに基づいて顧客像を具体化できたことが大きな前進でした」(山田氏)