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『MarkeZine』(雑誌)

第112号(2025年4月号)
特集『いま選ばれる「ブランド」の作り方』

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Cookieレス時代のネット広告を考える~利用者保護とマーケティング成果を両立するために(AD)

味の素「クノール カップスープ」が実践 “ユーザーインサイト”を捉えるInstagram活用術

 縦型動画市場が拡大する中、Instagram活用においてもリールをはじめ、縦型ショート動画の攻略が重要になってきている。縦型ショート動画の活用に注力する味の素では、「クノール カップスープ」のキャンペーンにおいて、Meta日本法人Facebook Japanが提唱する新たな手法「価値共創マーケティング」を実践。ショート動画広告を配信後、広告を見たユーザーのUGCからインサイト分析を行い、その後の広告配信やクリエイティブに活かしていくという新たな取り組みへのチャレンジを始めている。Instagramの「価値共創マーケティング」とは何か? 実際にどのような分析ができるのか? 味の素の実際の取り組みとともにその可能性を探っていく。

生活者のブランド理解を促す、味の素のInstagram活用

MarkeZine:はじめに、味の素のマーケティングコミュニケーションにおいて、Instagramがどのような位置づけにあるのか教えていただけますか?

山本(味の素):味の素は創業当初から現在に至るまで、様々な広告コミュニケーションに挑戦・展開してきました。その中でも重要な部分を占めていたのはいわゆるマスコミュニケーション的な領域で、これらは認知向上に大きく貢献した部分です。ただ、生活者のみなさまの趣味/志向の多様化にともない、こうした広告手法だけだと伝わりにくい、さらに言えば「まったく届かない」ことも増えてきました

 そこで活躍するのが、いわゆるデジタルメディアです。ターゲティング手法の多様化にともない、マスメディアと上手く掛け合わせることでよりきめ細かいコミュニケーションが取れるようになりました。その中でもInstagramはターゲティング精度が高く、認知から購買までの間を取り持ち、「理解や共感、好意」にまで貢献しうるという点で、生活者との深い関係性を築ける可能性の高い媒体であると考えています。

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味の素株式会社
食品事業本部 マーケティングデザインセンター コミュニケーションデザイン部 コミュニケーション戦略グループ
山本 桃子氏

冷水(味の素):近年は生活者行動として、調理をする際にレシピをInstagramなどのSNS上で検索したり、料理系インフルエンサーの投稿を保存するという行動変容が起きていることを実感しています。

 そのため、私が担当する調味料製品においては、Instagramは認知目的のテレビCMでは伝達できないより深い商品理解や調理実践を目的としたローワーファネルの施策として活用しています。最近では、リールの活用に注力していますが、KPIは量(リーチ数)ではなく質を重視し、視聴完了数やエンゲージメント率といった指標を設定しています。

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味の素株式会社
食品事業部 マーケティングデザインセンター コミュニケーションデザイン部 コミュニケーション戦略グループ
冷水 秀行氏

MarkeZine:博報堂は味の素のメディアプランニングを支援する立場として、どのようなことを意識していますか。

吉村(博報堂):近年、メディアプランニングに求められるものが変化していると感じます。以前は、テレビを見ない方々に向けて、テレビ用に作った素材をSNSで届けるという発想でしたが、最近では各媒体に合わせた素材を作ったほうが良いコミュニケーションができるのではないか? 単にリーチを獲得するよりも、しっかり見てもらえる設計にしたほうがデジタルの役割を果たせるのではないか? という発想に変わってきています。

 とはいえ、マス広告とSNSを分断して考えるのではなく、一緒に最大化していく方向でメディアプランを組んでいます。

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株式会社博報堂 ビジネスプロデューサー 吉村 早紀氏

ローワーからアッパーファネルへ 生活者との接点拡大を目指す

MarkeZine:Instagram活用において、現在特に注力している施策について教えてください。

冷水(味の素):インフルエンサーを起用したPR施策をInstagram上で年間通して実施しています。当社商品を使用したレシピ動画をInstagram上に蓄積していくことで、Instagram検索を通じた生活者の方々との接点を増やすことを中長期的な戦略としています。

 また、より細分化したクラスター、いわゆる「界隈」の方々の共感を得るために、ショートドラマやアニメ動画などの活用も行っています。

MarkeZine:Instagram広告を活用するなかで課題に感じていた点はありますか?

冷水(味の素):課題というよりは、現状の広告・コミュニケーション活動をより高度化させること、その一環としてInstagramを有効活用していきたいと考えていました。先ほど申し上げた通り、ローワーファネルに関してはInstagramが重要な機能を果たしている一方、認知の部分(アッパーファネル)ではテレビCMに頼っている状態が続いています。ローワーファネルで得られた知見を活かして、Instagram上でフルファネル施策を展開していきたいと考えていました。

 そこでInstagramへの理解と解像度を上げるため、Facebook Japan様とのワークショップ開催に至りました。

Instagram活用の効果をさらに高める「価値共創マーケティング」

MarkeZine:どのようなワークショップを行われたのでしょうか?

野本(Facebook Japan):ワークショップは前後半に分けて実施しました。前半は、Instagramのリール面を中心とした広告クリエイティブ作成のベストプラクティスや、食品業界を中心としたクリエイター(※)の最新の表現トレンドをお伝えするとともに、味の素様の特定ブランドがInstagram上でどのように言及されているかというインサイトセッションを設けました。このセッションでは、たとえば「クノール カップスープ」や「Cook Do」などの味の素様の実際のブランドに対するインサイトをご提供させていただいています。

(※)Metaではインフルエンサーをクリエイターと呼んでいる。

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Meta日本法人 Facebook Japan 野本翼氏

野本(Facebook Japan):後半はこれらの情報をもとにグループディスカッション形式で実施。実際にリール上で広告を配信する際のクリエイティブアイデアを、味の素様の方々にストーリーボードに落とし込んでいただくという実践形式で進めました。

 このワークショップの中で提案したのが「価値共創マーケティング」です。Facebook Japanが考える価値共創マーケティングとは、まさに文字通り、ブランドの価値はお客様と共に創り出していくものであるというマーケティングの概念です。従来のマーケティングである「企業から発信されるブランド価値」に加えて、「利用者視点での価値」を理解した上でコミュニケーションしていくことを一つの目的としています。

画像を説明するテキストなくても可

野本(Facebook Japan):具体的には、Instagram上で起きている利用者の会話から、利用者にとって価値につながるヒント、すなわちインサイトを抽出し、キャンペーンの方向性を決めるディスカッションに役立てることができるものです。Instagram上で発生する会話は、ブランドエクイティと強い相関があるというデータもあり、長期的なブランドエクイティの育成に非常に重要だと考えています。

「クノール カップスープ」でトライアルを実施

MarkeZine:実際に味の素が「クノール カップスープ」において、Instagramを活用して実施した「価値共創マーケティング」の取り組みについて教えてください。

山本(味の素):まず実施の背景について説明します。これまでも「クノール カップスープ」では、ブランドコミュニケーションにおいてInstagramの活用を継続してきました。その経年の取り組みを通じて知見も徐々に溜まってきたことに加え、今回のワークショップでのインプットを通じ、Instagram上のコミュニケーションをもっと深化できるとより生活者との深い絆が生まれ、さらに発展的なインサイトや発見を得られることができるのではないかと考えました。今後のマーケティング活動において有益なヒントを得られればという思いで、今回トライアルを決定しました。

 取り組みの概要としては、認知拡大を目的とするテレビCM素材を活用した出稿に加え、より商品理解につながる専用の縦型広告素材を別途作成し、同時活用を通じた認知〜理解の獲得にチャレンジしました。その縦型素材の配信期間中に、Instagram上でリアルタイムで発信される投稿を通じて生活者インサイトを探索する、といった内容のものです。

 

吉村(博報堂):メディアプランに関しては、テレビCM素材ではテレビCMリーチ補完を意識したうえで動画視聴媒体を中心にしますが、今回は「コーンクリーム」「ポタージュ」「オニオンコンソメ」の3品種それぞれの特性を活かした縦型素材を制作しました。

 加えて、Instagramという場でどのような発話が生まれるかも分析。「クノールカップスープ」という言葉や「味の素」という会社への言及がどのように発生するかといった、通常とは異なる分析の枠組みでの取り組みを行いました。広告接触に対する反応だけでなく、生活者の方々がどのように商品を捉えているかというヒントを得ることも狙いとしていました。

 味の素様は元々Instagramを積極的に活用されていますが、今回はテレビCM用の素材を編集するのではなく、Instagram専用のオフショット映像を別途撮影するという、業界的にも珍しい先進的な取り組みを実施されました。

UGC分析から見えた、カップスープファンのリアル

MarkeZine:今回の広告配信におけるインサイト分析(会話量リフトの分析)の結果について、Facebook Japanの野本様より解説をお願いできますか。

野本(Facebook Japan):まず、味の素様のキャンペーン広告をInstagram上で閲覧した利用者は、そうでない利用者の方と比べて約2.7倍、「カップスープ」というキーワードに言及した投稿を行っていました

 また、実際の利用者の動向を分析したところ、「クノール カップスープ」に対して独自のレシピでアレンジを加えて食事を楽しまれているという傾向がありました。いわゆる「映え」を意識した食事風景の中にカップスープが登場しているケースも多く存在していますが、利用者が独自にアレンジを加えたカップスープの投稿では、カップスープが食事の主役となっています。カップスープに少しのアレンジを加えることで、自分のニーズを満たす食事作りに役立てていることがわかりました。

 このような新たなカップスープの役割をコミュニケーションに組み込んでいただくことで、Instagram上でのカップスープについての会話量をより増やすことができると考えています。たとえば、クリエイターとタイアップしてそのアレンジレシピを紹介していく方法が考えられるでしょう。企業からの発信だけではなく、クリエイターからも情報発信をしていただくことで、企業単体の発信よりも会話量が増えるというデータもあります。

山本(味の素):今回の施策を通じて「カップスープ」という言葉そのものが生活者の方々の中に非常に親しみを持たれて根付いている、ということが可視化された点は非常に良かったと思っています。特にフィードであればハッシュタグを追跡することである程度の傾向値が見えるのですが、ストーリーズは24時間で消えてしまいます。今回は、ストーリーズの部分も含めてFacebook Japan様に見ていただけたことで、よりInstagramならではの生活者の手触り感があるインサイトの種を見つけることができたと思っております。

吉村(博報堂):これまでは全体戦略で定めた方針の制作クリエイティブがまず決まり、それに合わせてデジタルマーケティング戦略や適切なメディア選定・配信設計を行うのが一般的でした。しかし今回の取り組みを通じて、プラットフォームの特性を最大限に活かしたクリエイティブとメディアプランを一体的に考えるアプローチも、UGCからの発見や特定のブランド課題解決に有効な手段になりうると実感しました。

味の素 × 博報堂 × Facebook Japanが描く今後の戦略

MarkeZine:最後に、今回の結果を受けて今後どのような挑戦をしていきたいか、今後の展望としてお聞かせください。

冷水(味の素):UGCにおける自社商品の割合をいかに増やしていくかという課題に中長期的に取り組んでいきたいです。

 また、Instagram上で得られたインサイトをメッセージに取り込んでいくことで、企業広告・インフルエンサーPRを起点として、生活者の方々からの発信が自発的に発生するようなコミュニケーションを行っていきたいと考えています。

山本(味の素):今後はより一層、前例に囚われない出稿手法の多様化に取り組んでいきたいです。

 また、媒体の特性は日々変化し、生活者のマインドも常に変わっている状況の中で、生活者の気持ちを最も密に感じ取れているのはFacebook Japan様のような媒体社側だと思います。Facebook Japan様が蓄積されてきた知見と味の素ブランドをうまく連動させ、最適な接点を作り出していくという一連の取り組みは、引き続きさらにアップデートしていける余地があるだろうと、今回の施策を通じても改めて感じました。

吉村(博報堂):これまでは若年層・女性層へのリーチをInstagramの主な役割として位置づけてメディアプランを考えてきましたが、使い方への思い込みや「以前はこうだった」という固定観念にとらわれず、常にアップデートしていく必要があると思います。今後も三社で連携しながら、味の素様のブランドごとの固有の課題に合わせたチャレンジやプランニング、配信面での最適化などを積極的にご提案していきたいと考えています。

MarekeZine:Facebook Japanの「価値共創マーケティング」における今後の展望をお聞かせください。

野本(Facebook Japan):価値共創マーケティングは、利用者やクリエイターと企業が価値をともに創り出していくマーケティングであり、UGCからのインサイトをマーケティングプランに反映させ、その結果を確認する、というPDCAサイクルを繰り返すことが非常に重要です。味の素様へは、他のブランド含め、博報堂様と協力して継続したサポートを提供させていただきたいと考えています。

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この記事の著者

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:Facebook Japan G.K.

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/05/07 10:00 https://markezine.jp/article/detail/48703