「短期的な成果」と「中長期の成長」の両方を考えられているか?
藤平:「広告会社のこれからの在り方」に入る前に、まずは「クライアントからのニーズ・期待値」について話していきたいと思います。横田さんは、日系・外資系どちらのクライアントもよく見てらっしゃいますが、両者に差を感じることはありますか?
横田:違いを感じるところはいくつかあります。1つ例を挙げると、日系のクライアント企業は、ブランドのことを長期でよく考えている印象がありますね。
藤平:語弊があるかもしれませんが、それは正直ちょっと意外でした。というのも、いち生活者の視点で見ても、外資のエクセレントブランドは、コミュニケーションもアクションも一貫しています。つまり、よりブランデッドなのは外資系のクライアントなのかと思っていました。
横田:たしかに、外資のグローバルブランドは戦略やガイドラインを本社がしっかりコントロールするので、ブランドイメージは一貫しているように見えると思います。ただ、外資系企業はChief職が3年に1回くらいのペースで入れ替わることが多く、そのタイミングでブランド戦略や準備してきたキャンペーン施策がガラリと変わることもあります。担当者は“自分の”成果も示す必要があるので、その意味では短期視点で施策が決まっていくこともあるのです。
一方、日系の企業は、自社のヒストリーをすごく大切にされていますよね。同様に、広告会社も長期的なパートナーとして捉えて、過去の延長線上に施策を積み上げていくことが多いように感じます。とはいえ、どちらにも良し悪しがあり、日本企業は社内で重んじていることが多いために、意思決定に時間がかかる印象もあります。

藤平:なるほど。外資系ブランドとの仕事を振り返ると、たしかに突然の地殻変動が起きるケースが多かったように思い、納得です。
さっそくよい論点が出たので掘り下げたいのですが、外資・日系問わず、いずれのクライアントにも「短期で求めている成果(売上)」と「中長期で据えているブランド戦略」があって、広告会社はそのバランスをうまく取りながら物事を進めなければなりません。最近、僕はここに課題を感じていまして。比重が「短期的な成果(売上)」のほうにどんどん寄ってきていて、「ブランドの中長期戦略・あるべき姿」までしっかり考えられる人が、クライアントにもエージェンシーにも減っているように感じるんです。
もちろん売上を無視する気持ちはまったくなく、それらを二項対立にしがちであること、そしてその対立が起きた際に「可視化しにくく曖昧」という理由でブランドを切り捨てるのはもったいないのではないか、という課題感です。
横田:そのバランスは非常に重要ですよね。藤平さんの課題感の要因もわかる気がします。
私が広告業界に入った当初は、ホリスティック(統合)プランニングと言っても、テレビ・OOH・雑誌・新聞を束ねて、アイデアを持っていけばよかったのですが、今は本当に驚くほどメディアの細分化が進んでいます。個々のメディアで「どれだけ見られたか・反応してもらえたか」を追っていると、アイデアやアクションがプラットフォームやタッチポイントのほうに最適化されて、次第に「ブランド」から離れていってしまう。そんな課題感を私も持っています。
藤平:たしかに、デジタルで計測可能な変数が増えた結果、成果も個別最適化されています。施策ごとに個別最適を追求していくと、訴求ポイントやトーン&マナー、メッセージが統制しきれず、中期的なブランド戦略が整わなくなりますからね。個々の施策がブランドに落ちないこともしばしばあります。
横田:メディア環境が大きく変わっている中で「ブランドをどう束ねるか?」は、クライアントのブランドチームと、広告会社の営業担当がしっかり合意しておくべきところだと考えていますし、ここは実は営業担当の腕の見せ所だと思っています。