共通認識の欠如を打破する「Burning Pain」の重要性
BtoBビジネスでは、顧客に「現状維持のリスク」を認識させ、「Why Now(なぜ今なのか)」を明確にすることで、初めて投資への行動変容が起きる。これは社内変革でも同様で、適切な権限を持つ人物に対してBurning Painを提示し、現状を変えなければいけないという危機感を持たせることが重要となる。

「お客様に物を売るときには『今ここに投資しないと、機会損失しますよ、競争に負けますよ、大変なことになりますよ』と今ここにある危機と解決策を説明するからこそ、『しょうがない、では従業員のボーナスを増やすよりもこっちに投資しよう』という話になる。BtoBビジネスのこの文法を、社内でも展開してみましょう、ということです」(中東氏)
中東氏は自社のBurning Painと解決策を定義づけるため、People、Process、Platformの3Pに着目。「機密漏洩」「GDPR制裁金」「株主代表訴訟」「善管注意義務違反」「株価への影響」といった企業経営リスクとして可視化し、経営層に提示した。

「プライバシーやセキュリティといったわかりやすい問題から、データ管理やビジネスプロセスの必要性につながるストーリーを構築することで、経営層のBurning Painを喚起し、『Why Now?』と『現状維持のリスク』、そしてOps機能の必要性を理解してもらいました。こうして少しずつ、組織変革への理解と協力を得られました」(中東氏)
社内にも正しいマーケティング思考を。役割拡張は必須に
中東氏は組織変革において、自らのマーケティング経験を活かし、「顧客理解」と「コミュニケーションによる態度変容」というマーケティングの基本的な考え方を社内にも適用すべき、と言う。
社内マーケティングは単なる認知活動ではなく、意思決定者や困る人は誰なのかを前提とした「ターゲティング」、なぜ今なのか(Why Now?)と現状維持のリスクは何かといった問いに基づく「バリュープロポジション」を明確にする必要があると指摘。一方でそれを行うためには、マーケティングの役割を拡張せざるを得ないと語る。

「コンテンツを作れば終わり、イベントをやれば終わり、GA4を読めるようになれば終わり、ではありません。現代のマーケティングで求められることを実現するには、様々な機能・役割の拡張が必要です。Tech Stack統制、プライバシー/セキュリティガバナンス、データクオリティマネジメント、業務プロセス、人材育成など、マーケティング組織にはますます幅広い知識とスキルが求められてくると考えています」(中東氏)
川上氏は「この役割の拡張によって、マーケターのリーダー・CMOには、何が求められるのか」と質問。一昔前の「グローバルCMOは短命」という話題にも触れながら、中東氏の見解を尋ねた。