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インサイト活用のプロ・米田氏と紐解く、実践的インサイト活用法

アサヒビール新ブランド開発部に聞く、「ザ・ビタリスト」誕生の裏側とインサイト活用の極意

 多くのマーケター、ビジネスパーソンが常に向き合わなければならない「顧客インサイト」。本連載では、P&Gの消費者インサイト・市場戦略関連部門で数々のインサイト活用を行ってきた米田恵美子氏が、様々な実践的場面におけるインサイト活用について紹介し解説していく。第1~3回は、米田氏が2019年からインサイト顧問を務めるアサヒビール社でのインサイト活用を取り上げる。初回となる本記事では、新ブランド開発部におけるインサイト活用の極意と、新発売されたブランド「THE BITTER-IST(ザ・ビタリスト)」誕生の舞台裏についてうかがった。

インサイトは購買欲求のスイッチ

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インサイト・ピークス 代表取締役社長/アサヒビール インサイト顧問 米田恵美子氏

米田:はじめに、新ブランド開発部とはどのような部署なのかご紹介ください。

西村:3年前に新商品開発部から名称が変わり、生まれた部署です。「新商品」というとパッケージや中身を連想しがちですが、ブランドまでしっかり作り込むことを意識して名称変更しました。

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アサヒビール 新ブランド開発部 部長 西村壮一郎氏
2001年入社。6年間の営業を経て、14年ほど国内、国外のマーケティングを担当し、その後新ブランド開発部が新設されるとともに部長に着任

米田:(元P&Gの)松山さんがアサヒビールに来られた時に力を入れられたポイントの一つがブランディングでしたよね。良い製品を売るのではなく、お客様にとって意味のある価値(=ブランド)を届けるということを強く意識していくようになりました。

西村:新ブランドに限らず、ブランドを作っていく際には、常に工夫が必要になります。どんなブランドであっても、何の工夫もしなければお客様に飽きられてしまうためです。既存ブランドも2~3年に1回、何らかのチューニングをしています。

米田:お客様にとって意味のある価値を感じていただくには、他の商品とは違う「差別性」が必要で、でも「差別性」が立ちすぎるとターゲットが狭まりすぎる。差別性に汎用性をもたせて広げていくことでたくさんの人に買っていただけるのだけど、それが、2、3年も経つとあまりに普通になってしまい、差別性そのものが消えかねなくなってしまう。そこでまた、新たに差別性を立てて広げていく。ブランディングは、まさにその繰り返しで終わりのない挑戦ですよね。

 さて、ここからは本題のインサイト活用についてお話を伺っていきたいと思います。インサイトとは実在する1人の人(N1)の心が実際に動く時のストーリーであり、分析で浮かび上がってくる想像上のペルソナから見える仮説ではない、というのも、松山さんが来られた時から強調されてきたことでした。インサイトの活用について西村部長のご経験やお考えをお聞かせいただけますか?

西村:インサイトは、商品開発するにあたってのアドバイザーのようなものであり、お客様の購買欲求の「スイッチ」のようなものだと思っています。新ブランド開発部として多くのブランドを送り出してきた中で、そのスイッチを見つけること自体は、だんだんとできるようになってきたと思っています。

 一方で、より多くの方々に届けるための磨き込みは、永遠の課題だと言えます。

  近年多くのお客様の心のスイッチが入れられたブランドとして、「マルエフ」があります。マルエフは「スーパードライ」が発売される前のブランドで、消費者向けの缶ビールとしては終売していたのですが、飲食店さんではずっと飲まれ続けていました。それを缶としてリニューアルし、発売したものです。

 一方「ホワイトビール」は、若い女性の視点を入れた新しいビールとして、首都圏、信越エリア限定で発売された商品です。トライアル販売では好評をいただきましたが、少々ニッチなインサイトでしたので、現在は終売しています。

 店舗の棚は限られているので、発売した商品をその棚に残し続けるためには、N1で良いインサイトを見つけ、それをより多くのお客様に共感いただくインサイトへと広げていくことが重要です。

【実例つきで紹介】インサイト発掘の秘訣

米田:では、そのN1インサイトをどのように発掘されるのかについて、河口さんにご紹介いただきたいと思います。まずは「イマージョン」についてお話しいただけますか?

河口:「イマージョン」とはただのインタビューやアンケート調査ではなく、自分自身が理解したい対象の方々と同じ経験を体験する方法です。消費者の感覚的な理解を深めるために、こちら側もその世界にどっぷり浸ることで、表面的な意見や数字では見えてこない深層心理や行動の背景を探れます。

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アサヒビール 新ブランド開発部 河口莉子氏
2016年入社。工場や研究所で技術職として勤務の後、開発プロジェクト部を経て、新ブランド開発部に異動。現在は新商品のマーケティングを担当

河口:たとえば、以前開発に携わった「横丁ダルマサワー」もイマージョンを経てインサイトを発見したブランドの一つです。

 当時、実際の居酒屋さんに行って、そこでお酒を楽しんでいるお客様にインタビューをしました。「今の気分はどうですか?」という質問から始まり、実際に横丁だるまサワーのパッケージや名前、味についても感想を教えていただいています。もちろんお話をするための許可などを得る必要はありますが、その場で訊くということによって本音が聞きやすくなり、私たちが気づきもしなかった良いインサイトを見つけ出していけます。

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横丁ダルマサワーの広告クリエイティブ撮影にて同商品を楽しむ様子。居酒屋でのインタビューの雰囲気から着想を得て、後日に別途撮影が行われた

河口:この時にいただいた声で印象的だったのは、「パッケージのダルマが可愛いから、1次会から2次会までの間の道で、みんなと歩きながら飲みたいね」というものでした。そのような最高に楽しいタイミングで飲んでいただくならば、「お酒感はありながら、可愛らしさもあるという絶妙なバランスを探ることが大切なのではないか」と気づきました。

 「ダルマ」というと「怖い顔つき」という印象もありえますし、「七転び八起き」といったイメージからは真面目な方向にいってしまいがちです。しかしイマージョンで得たインサイトを活かすことで、ワイワイと楽しい雰囲気にマッチするように、バランスを見ながら改良していけました。

米田:イマージョン推進プロジェクトとして、アサヒビール社は「イノベーションデイ」を設けられましたよね。

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この記事の著者

こまき あゆこ(コマキ アユコ)

ライター。AI開発を行う会社のbizdevとして働きながら、ライティング業・大学院で研究活動をしています。
連絡先: komakiayuko@gmail.com

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/05/21 08:00 https://markezine.jp/article/detail/49002

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