「長く使いたい」を数値で紐解く
下図は、今回の分析結果を構造的に整理したものです(図表5)。まず、ユーザーに取ってもらいたい理想的な行動として「利用期間を伸ばす」ことを仮のゴールとし、そのために「今後もこのブランドを使い続けよう」という意向(長期利用意向)を持ってもらうことを目標としました。次に長期利用意向とその裏にある感情(ベース満足・エンゲージメント・スイッチングバリア)との数値的な関係性について、1,086人のアパレルブランドユーザーを対象としたアンケート調査の結果を、インテージ独自の「i-KPIマップ™」というフレームを用いて構造化しました。
1層(長期利用意向)と2層(ベース満足・エンゲージメント・スイッチングコストをセットした感情パス)の関係を見ると、長期利用意向には、ベース満足を示す感情の影響が最も強く出ていますが、「自分と切り離せない」というエンゲージメント項目も中程度の相関があり、「乗り換えると高くつくかも」というスイッチングバリア項目も、弱いながら影響力を持っていることがわかります。まさに、満足度だけでは表せない関係性が示されていると言えるでしょう(※1)。この結果を戦略に落とし込む場合、仮に満足度が高止まりしている状況では、エンゲージメントの育成に注力するといったアプローチも有効になりそうです。
なお、本図は6社の合算データから作成していますが、個々の企業単位で見ると均されていた傾向が際立ち、感情の偏りがより顕著に表れることもあります。
(※1)重回帰分析で満足度を統制した上でも、エンゲージメントとスイッチングバリアは長期利用意向に対して統計的有意な影響を示したことから、該当結論に至っています。
感情の裏にある顧客体験の違い
これまで1層と2層に注目してきましたが、3層には「CXファクター」という項目があります。
「CXファクター」とは、「顧客が商品やサービスの利用を通じて体感する価値」を表すもので、粒度を細かくすれば、一つのサービスに対して100~200項目ほど洗い出すこともできます。今回の調査ではアパレル業界に共通する代表的なCXファクターについてユーザー評価を収集し、そのうちどれが最も感情パスに影響を与えているのかを確認しました。
感情パスとCXファクターの関係を見ると、ベース満足には「商品を選ぶ楽しさ」というCXファクターが強く影響していました。服を買う行為は基本的に楽しみをもたらすものと認識されており、その充足が満足度向上に重要であることがわかります。
また、「自分と切り離せない」というエンゲージメント項目は、「ユーザーの声を適切に公開している」というCXファクターから最も影響を受けていました。ブランドを利用する他のユーザーの声が見えることで、「自分と同じような人がいる」と思え、一体感が生まれるからではないかと考えられます。
一方「乗り換えると金銭的にかえって高くつきそうだ」というスイッチングバリア項目は、「商品・サービスに他店にはない特徴がある」というCXファクターとの関係が最も強い結果となりました。これは少し解釈的になりますが、自身に合った特徴のある商品を他ブランドで探す場合、正解にたどり着くまでに余計なコストが発生するリスクがあり、乗り換え動機が生まれにくくなっていると読み取れます。
このように、それぞれの感情に影響を与える体感価値の違いを把握することで、長期的な利用意向の形成される過程を、より深く理解できるようになります。
