感情を動かす具体アクション
感情パスとCXファクターの関係性がわかると、「KPIに寄与する感情を生み出す効果的なアクション」の仮説を立てることが可能になります。先ほどの図の全体像を把握すると、「商品を選ぶ楽しさ」がキーとなるCXファクターと読み取れるため、たとえばクーポンの発信に力を入れるよりも、鏡の配置やディスプレイ方法を工夫したほうが、結果的に長期利用意向を高める可能性があります。また、エンゲージメントの形成に力を入れたい場合、公式サイトでの声の紹介や、コメントバックなどを行い「ユーザーの声の適切な公開」というCXファクターを向上させることができるかもしれません。アクション検討の際、CXファクターのより具体的なイメージを掴みたい場合は、定性調査を併用するのも大変有効です。
いずれにせよ、どのCXファクターがどの感情の醸成に寄与しているのかを定量的に把握することで、無駄のないリソース配分が可能になるのです。

感情とCXで成果を再構築する
今回の分析から、ユーザーが商品やサービスを使い続ける理由には、「ベース満足」「エンゲージメント」「スイッチングバリア」といった感情が複合的に関与していることが明らかになりました。さらに、それぞれの感情には「CXファクター」という体験価値の結びつきがあることも、定量的に示すことができました。このように、感情に強く影響を与えるCXファクターを特定することで、業績への貢献度が高いアクション仮説を構築することが可能になります。
今回用いたフレームでは、長期利用意向を据えている1層を「KPI」の層と位置づけています。冒頭でも触れたとおり、企業がKGI(業績やLTV)を達成するためには、ユーザーに理想的な行動を取ってもらう必要があり、そのためにはユーザーの心理に適切な変化が起こるような働きかけが不可欠です。その際に目標とする「ユーザーに抱いてほしい意向」が、KPIとして追うべき対象になるのです。
みなさまの会社でも、KGIを実現するための理想の顧客行動を描き、KPI(行動につながる意向)を設定し、感情やCXファクターを含めた関係性を整理することで、見落としていたアクション仮説が見えてくるかもしれません。まずは、3層構造の仮説作りから始めてみてはいかがでしょうか。
【調査概要】
調査手法:インターネット調査(定量調査)
調査対象:インテージ マイティモニター 全国20~79歳男女
調査時期:2024年10月29日(火)~11月14日(木)
標本サイズ:全8業界合計 8,537s(うちアパレル業界 1,086s)【参考文献】
Anderson, E. W., & Mittal, V. (2000). Strengthening the Satisfaction-Profit Chain. Journal of Service Research, 3(2), 107-120.
Burnham, T. A., Frels, J. K., & Mahajan, V. (2003). Consumer switching costs: A typology, antecedents, and consequences. Journal of the Academy of marketing Science, 31, 109-126.
Hollebeek, L. D., Glynn, M. S., & Brodie, R. J. (2014). Consumer brand engagement in social media: Conceptualization, scale development and validation. Journal of interactive marketing, 28(2), 149-165.
Szymanski, D.M. & Henard, D.H. (2001) Customer Satisfaction: A Meta-Analysis of the Empirical Evidence. Journal of the Academy of Marketing Science, 29, 16-35.
小野譲司, 小川孔輔, 森川秀樹. (2021). 『サービスエクセレンス: CSI診断による顧客経験[CX]の可視化』生産性出版, 117-119.
