(2)パーパス:SKIP 「WINTER DELIVERY FLEET」

カナダの冬は、ただ寒いだけではありません。激しい雪嵐が頻繁に発生し、都市機能が麻痺するほどの影響を及ぼします。自転車専用レーンは雪に埋もれ、道路は通行困難になり、日常生活にも大きな支障が出ます。
この厳しい季節は、フードデリバリーサービス「SKIP(スキップ)」にとっても大きな試練です。注文数が大きく減少するだけでなく、配達の遅延や中止が相次ぎ、サービスへの信頼も揺らいでしまいます。特に2025年の冬は、近年でも最も過酷なものでした。トロント、モントリオール、オタワなどの主要都市では記録的な積雪が観測され、道路インフラは限界に。SKIPにとって、これまでにない対応が求められました。
そこでSKIPが打ち出したのが、「配達しながら除雪する」という新しいアプローチです。配達車両に除雪機能を搭載し、食事を届けるついでに道路の雪も取り除くという仕組みを導入しました。この取り組みにより、注文が増えるほど除雪される道路も増えるという、まさに社会とブランドの双方にメリットが生まれる仕組みに。
アメリカ企業との競争が激化する中、「カナダの冬を本当に理解し地域社会に貢献する」SKIPの姿勢は、生活者だけでなく、パートナー企業や小売業者からも高く評価されました。厳しい冬を乗り越えるために、ただ食事を届けるだけでなく、街のインフラを支える役割まで担ったのです。
今年のカンヌでも、パーパスキャンペーン(企業が社会的な意義を軸に、生活者と深いエンゲージメントを図るコミュニケーション)は、成功事例の中心となっていました。
自動車メーカーのVolvo(ボルボ)では、インドの全国道路安全月間に、著名なアーティスト、サブド・ケルカール(Subodh Kerkar)と協力し、歩行者の安全意識を高めるためのユニークなキャンペーンを展開。ケルカールは街中の目立つ場所に横断歩道をアートとして描き、「最も無視されているアート作品」としてソーシャルメディアで発信。このアートプロジェクトはメディアでも大きく取り上げられ、インフルエンサーや他のアーティストの間でも話題になりました。

ブランドが社会課題の解決や人々の価値観に寄り添い、社会や日常生活に貢献する姿勢は、消費者との信頼関係を深める上で、引き続き重要な要素とい言えるでしょう。
(3)文化理解:INDIAN RAILWAYS「LUCKY YATRA」

インドの鉄道は、世界でも有数の規模を誇る交通機関です。毎日2,400万人以上が列車を利用し、駅や車内の混雑は日常の風景となっています。満員の列車では、乗客が手すりや窓にしがみつく姿も珍しくありません。
そして、その巨大なシステムには大きな課題も。インドでは、自動改札機やゲートは使われておらず、駅に配置された少数のチケット検査員が不定期に確認を行う「信頼制」を採用。実際にはチケットの確認がほとんど行われず、多くの人が無賃で乗車しているのが現状です。調査によると、乗客の約41%がチケットを購入していないとされており、利益を再投資する鉄道のサービス品質にも影響を与えています。
この課題に対処するために導入されたのが、「ラッキー・ヤトラ(Lucky Yatra)」というキャンペーン。インド人が大切にする宗教や占星術などの「幸運」にまつわる文化に着目し、鉄道のチケットを宝くじに変えるというユニークな仕組みが考案されました。チケットに印刷された個別番号をそのまま抽選番号として活用し、毎日1名の当選者に賞品が贈られるというものです。このキャンペーンは、駅のプラットフォームでのアナウンス、車内の音声案内と言った、鉄道のあらゆる接点を活用して展開。どこにいても当選番号を確認できるようにし、乗客の関心を引きつけました。
その結果、チケット売上は34%増加し、無賃乗車の抑制に成功。ラッキー・ヤトラは、ルール順守を「エンターテインメント」に変えることで、乗客とよりポジティブな関係を構築することに成功したのです。
文化的なインサイトに根ざしたPRキャンペーンは、今年の候補作の中で最も多く見られました。フードデリバリーのDoorDashが行った、NBAファンとのキャンペーンもその一つです。