成長企業も直面したBtoB企業が向き合うべき課題
━━BtoB企業の成長においては、その組織体制を問わず基本的に商談獲得を効率化することが一つのキーだと思われます。BtoBベンチャー企業であるClipLineは、どのような体制で商談獲得やその効率化に取り組んでいるのでしょうか?

外資系および国内企業でフィールドセールス・インサイドセールスを約20年間経験し、2022年にClipLine株式会社に入社。インサイドセールスの立て直しから開始し、約1年での再構築を経て、事業拡大戦略の一環としてアライアンス事業の責任者に。2025年からはマーケティング部門の責任者も兼務
清水(ClipLine):取り組むべき内容は事業フェーズに応じて大きく変化するものです。ベンチャー企業の立ち上げ期で顧客基盤がまだ限定的な段階であれば、アポイント獲得に集中した活動を展開すれば十分でした。しかし、事業がある程度の規模に成長してくると、どのようなお客様と商談を行えば受注率が向上するのか、また営業部門への商談パス時にどのような情報を収集しておけば次のステップにつながりやすいのかといった、より戦略的な視点が求められるようになります。
私自身がインサイドセールスに長年携わってきたので実体験としてあるのですが、たとえば、マーケティング部門が発信しているサービス紹介コンテンツは、現場レベルの担当者には理解しやすいものの、経営層が見た場合には物足りなさを感じる内容になっているケースが多々あります。よくある失敗の一つです。営業担当者がせっかく経営層と話す機会を得られたにもかかわらず、「そんな細かい話をしに来たのか」という印象を与えてしまい、機会を活かしきれない状況が発生してしまいます。
━━タッチスポットはBtoB企業の商談獲得効率化を支援していますが、相談を受ける立場として、現状をどう捉えていますか。

2018年に営業責任者としてタッチスポット株式会社に入社。2019年に取締役に就任し、2022年の「CEOクローン」事業立ち上げ時にカスタマーサクセス管掌役員(CCO)に。現在はCS全般を統括
犀川(タッチスポット):実際のところ、ご相談の7~8割程度は、リード獲得や商談獲得に関するものです。既存のハウスリストの掘り起こしや、アウトバウンド型の架電において十分な成果が得られていないといった課題が多い印象があります。
また、どの企業でもリソースが限られている中、AIを活用した効率的な獲得手法を模索されている企業様も増えています。しかし、現時点で当社が考えているのは、AIがどれほど発展していても、獲得からクロージングまでの全工程をAIで完結させることは困難であるということです。日本の商慣習では、人と人との直接的なコミュニケーションが不可欠だと考えています。
「CEOクローン」とは? AIコンテンツマーケティングの可能性
━━では、どのような点を効率化すべきでしょう?
犀川(タッチスポット):そもそも商談の成功確率を上げるためにはとにかく事前準備が大切です。相手企業の情報を十分に把握した上で適切な提案を行う必要があります。従来のように「初めまして」の状態で商談に臨み、その場で課題をヒアリングから始めるような進め方では、リードタイムが長期化するだけでなく、成果も予測しにくいものです。人と人のコミュニケーションにつなげることは必要ですが、その質や機会の数を伸ばすために相手の企業状況を把握すること、自分たちのサービスについて一定理解していただくことにはAIを活用した技術的な解決が可能だと思っています。
━━ClipLineでは先ほど挙げられた課題を解決するため、タッチスポットが展開する「CEOクローン」を導入したとうかがいました。「CEOクローン」が提供するサービス、機能の概要、強みをお聞かせください。
犀川(タッチスポット):「CEOクローン」は、企業のトップセールスによる商談をAIが再現し、アプローチしたいお客様に最適な提案を24時間365日届けるサービスです。お客様にとってはWebブラウザで開ける動画のようなコンテンツとして機能しますが、AIから投げかけるヒアリングへの回答やお客様の視聴行動をAIが分析し、一人ひとりに最適なアジェンダをその場で作成し提案します。


CEOクローンを通じて収集した、視聴者の行動データと質問への回答からは、視聴者の商談/受注の確度が判断できます。管理画面上では、視聴者の一覧を確度が高い順などで表示でき、ホットリードを可視化することが可能です。従来のようにがむしゃらに営業電話をかけるのではなく、ホットリードに対するアプローチに注力することで、質の高い商談を実現でき、商談数、商談化率も飛躍的に向上します。
質の高い商談数が2倍以上に。事前の相互理解で加速
━━コンテンツはどのような仕組みでしょうか?
犀川(タッチスポット):「CEOクローン」ではAIアバターを使用しています。モデルとなる社員などの人物について短い動画や音声から学習させて作成するものです。一度でもアバターを作成してしまえば、もし訴求したいサービスの仕様や価格にアップデートがあっても、テキストデータでAIに学習させるだけでトークの映像や音声を更新できます。これにより、高速でPDCAサイクルを回すことが可能です。
犀川(タッチスポット):「CEOクローン」は視聴者であるお客様の興味に応じてコンテンツを表示してくれるため、従来のコンテンツマーケティング観点から見ても非常に優秀なツールです。当社ではこれを「AIコンテンツマーケティング」という新たな手法として捉えており、多くの企業様にとって親和性がありながら、これまで以上の価値を創出できるのではと考えています。
━━ClipLineでは「CEOクローン」をどのように活用されているのでしょうか?
清水(ClipLine):たとえば既存のハウスリストに対するメールマーケティングの際に「CEOクローン」をお送りしていますし、その後インサイドセールスが1to1のアプローチを行う際にも改めて個別に送付します。また、実際に商談を獲得した際も、営業から「もしよろしければ商談前に再度ご覧ください」とお伝えしています。
「CEOクローン」でコンテンツを視聴いただくことにより、商談にあたってお話しすることが多い前提となる知識や本質的な課題の認識にもつながります。また、「CEOクローン」視聴時の行動データから得られる情報とインサイドセールスがヒアリングで得た情報が重なることで、初回商談からより具体的な確認や提案につなげられるのです。
メールでのアポイント取得時にお客様に「CEOクローン」をご覧いただければ、多くの場合はBANT(Budget:予算、Authority:決裁権、Needs:必要性、Timeframe:導入時期)情報を取得できます。これにより、「直近案件である」「キーマンが回答している」「直近のペインやニーズがある」といった条件を満たす質の高い商談化が2〜3倍に増加しました。そのようなお客様は2回目の商談につながる率も高くなる傾向があり、限られたリソースの中でも、成果を上げられています。


ナーチャリングやアライアンス戦略でも効果あり
清水(ClipLine):CEOクローンはナーチャリング目的での活用度も高くなっています。アプローチの優先順位が明確になるだけでなく、「どれくらい興味があるのか」「各個人がどのような状態なのか」といったことが、確認できるようになりました。
たとえば、メールをお送りした際、価格の部分を集中的にご覧になっている場合があります。そのような状況を確認してアプローチすると、「実は検討していました」という話になることがあるのです。

清水(ClipLine):そもそもナーチャリングには非常に細かいアクションも含まれます。リードやハウスリストはもちろん、過去に商談して失注した方へのアプローチにも“状況うかがいの連絡”をすることなどがあり、以前はそれにも工数がかかっていました。
現在は「CEOクローン」のおかげで、工数をかけなくても状況を把握できるようになりました。メールで「CEOクローン」の視聴URLをお送りした方が実際にご覧になっている状況が確認できれば、それが次のアプローチをするシグナルになります。
また、「CEOクローン」はアライアンス事業のパートナーセールス領域でも力を発揮しています。パートナーの方々に当社サービスを理解していただく必要があるため、以前は勉強会や打ち合わせを重ねる必要がありましたが、「CEOクローン」を導入してからは、ほぼ半分の回数で済むようになりました。
個人的には「CEOクローン」をエンドのお客様に直接展開すれば、より効率的に理解を深めていただくことができ、結果的にパートナー様の営業活動を支援することにつながるのではないかと考えています。
部門間の連携強化も実感 サイロ化を防ぐ一手に
━━ClipLineでの「CEOクローン」活用を振り返り、その成功要因をタッチスポットはどのように見ていますか?

犀川(タッチスポット):一つは、やり切るスタンスを持つことです。「CEOクローン」を信じていただき、当社カスタマーサクセスと一緒に本気で向き合っていただけたことに、ClipLine様が成果を上げられた要因があると思います。
また、ClipLine様はいわゆるThe Model型の組織体制を取られていますが、分業体制の弊害としてよく挙げられるサイロ化の解決にも「CEOクローン」は有効です。同社の使いこなし方はまさに部門間連携の強化へと向かわれているように感じました。
清水(ClipLine):当社でも意識しているように、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、すべての部門が「CEOクローン」のデータを確認して連携すれば、顧客の状況や次回アプローチで伝えるべきことなどの認識に齟齬がなくなっていきます。各部門間の連携強化という面でも力を発揮すると思いますね。
「CEOクローン」で広がる可能性 人と連携する機能の拡充へ
━━最後に、今後の展望をお聞かせください。
清水(ClipLine):特にフィールドセールスの部分では「CEOクローン」をまだまだ活用しきれていないため、もっと積極的に活用していこうと取り組んでいます。「CEOクローン」で実現している質の高いヒアリングを基にすれば、より良い結果につなげられるはずです。現在よりもさらに活用を進めて、新たな使い方を作り出していきたいと考えています。
犀川(タッチスポット):「CEOクローン」はこの9月にさらに大幅なアップデートを実施します。個別の視聴データについても、AIが分析して興味度のスコアと理解度のスコアに分けた上で、どのステータスが高いか、どこに興味を持っているか、どの部分で懸念を抱いていそうかといった情報が可視化されるようになる予定です。
犀川(タッチスポット):また、AIが「CEOクローン」と視聴者の対話履歴から「この人はこういう状態であると考えられます」といった分析結果をよりしっかりとレポートし、次の手を提案してくれる機能も追加されます。これにより、ナーチャリングはもちろん、フィールドセールスの方々にもより積極的にご活用いただけるはずです。

さらに、お客様とのコミュニケーションにおいて、人間が介入しなければならないタイミングについても、様々なチャレンジを行っています。たとえば、「CEOクローン」をご覧いただいている方がリアルタイムで管理画面から確認でき、その方に対して「今、目の前に担当者がおります。よろしければお話しいたしませんか?」とポップアップ表示し、視聴者がOKボタンを押すと、インサイドセールスと直接つながって「CEOクローン」上でその場で対話できる……といった機能も9月でリリースいたします。

今後も続々と機能をリリースし、テクニカルな面とフィジカルな面の両方でカバーしていきたいと考えています。マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、すべての皆様が使いたいと思っていただける機能を、高速で積極的に拡充していく予定です。