「つながり」と「行動」のデータを見て顧客解像度を上げる
━━ファンケルは事業を支える独自のIT基盤「FIT(ファンケル・インフォメーション・テクノロジー)」があり、FITを活用することでお客様一人ひとりに合ったコミュニケーションを実現しているそうですが、これはどのような仕組みなのでしょうか。

FITは、通販・店舗にまたがって顧客や施策を統合管理し、通販の注文から出荷までの管理を担うシステムで、2014年から開発を進めてきたものです。第1期は2014年から2年かけて基幹システムをオープン化し、2017〜2018年に通販・店舗のデータを統合しております。そのFITという通販・店舗のシームレスな基盤があったからこそ、コロナ禍の店舗休業時に円滑に通販誘導ができ、売上影響を最小限におさえることができました。その後、FITに蓄積されたデータ分析を本格化してCRMの取り組みを変えるようになったのです。
━━お客様の解像度を上げるためにどのようなデータを見ているのでしょうか。
具体的には、ECサイトやアプリにおけるお客様の行動履歴や、購買履歴はもちろんですが、アプリやLINE、メルマガの登録・配信・レスポンス、情報誌の送付・レスポンスといったオンライン、オフラインでのコミュニケーション履歴とその反応状況、口コミ投稿の履歴、直営ECサイトの「お気に入り商品」の登録などのアクティブな行動履歴状況、店舗でのカウンセリング履歴などの顧客に紐づくあらゆるデータを、顧客をセグメントして見ております。
また、当社では情報誌やECサイト上で告知しているキャンペーンの他に、お客様ごとに個別にアプローチしているキャンペーンがあります。細かいものまで含めて年間1,000本ほどの施策が実行されており、そのうち8割はFITで登録している施策、残り2割はマーケティングオートメーション(MA)やECサイト上での出し分けしているものになります。
この施策数を実現できることはFITの強みだったり、ファンケル通販の強みではありますが、前述の施策の重複の話でもありましたが、本当に意味のある施策なのかなど顧客軸での可視化が必要であり、どのお客様に展開した施策なのか、コストはどれくらいかかっているかを紐付け、顧客ごとの損益を可視化しています。まだ完全にはできあがっていないのですが、こうしたデータを全員で見て、理解を深め、業務を変えつつあります。

店舗と通販が共通して「1人」を意識できる体制へ
━━CRMの体制についても教えてください。
ファンケルの組織は「事業・広告」と「チャネル」に大きく分かれています。チャネルの方は、私が所属する通販チャネルのほか、直営店舗チャネル、ドラッグストア等の卸販売チャネルなどが含まれます。さらに通販チャネルは、直営通販とECモールの2つがあります。
圧倒的な配荷店舗数を持つ卸販売チャネルや、膨大な集客力があるECモールは主力商品を展開して幅広い顧客接点を担うという役割があり、直営通販と直営店舗は顧客体験を深めてLTVを高める役割を持ちます。直営通販と直営店舗は、組織こそ別ですが「1人の顧客」を意識し、オムニチャネル化を見据えて融合を進めています。
なお、直営通販は、キャンペーンを企画する部署、ECサイトやLINEなどデジタルコミュニケーションを司る部署、新たな顧客体験価値を創出する部署などに分かれておりますが、顧客軸のあらゆるデータを組織長も交えて発信し続けることで、社内の意識も大きく変わりました。商品ごとの施策成果ではなく、「顧客との絆づくりだから、顧客軸で見よう」という意識改革は大きく、「お客様にとって何をご提案すればいいか、どういう体験をしてもらうとお客様のロイヤルティはあがり、結果として併売や継続につながるか」という視点で施策を企画するようになっています。
ファンケルの石川氏も登壇!LTV戦略が学べるセッションが無料開催
2025年9月10-11日に東京・丸の内で開催予定の「MarkeZine Day 2025 Autumn」では、本記事で登場したファンケルの石川氏らが登壇するセッション『ファンケル×ゴルフダイジェスト・オンラインに学ぶ「ブランド想起」を広げるLTV最大化戦略(仮)』を実施予定です。
パネリストとしては石川氏のほか、ゴルフダイジェスト・オンラインでデータを活用したエンゲージメント向上に取り組む加藤氏も招聘し、モデレーターに経営やCMO視点で長くデータを活用している、タネトシカケの代表、はなまるのCMOの髙口裕之氏を迎えます。
顧客とのエンゲージメントを高め、LTVを向上させるためにどのような工夫が必要か、どのような発想でデータを活用すべきかなどが学べるセッションです。参加は事前登録制で席に限りがありますので、登録はぜひお早めに。