顧客体験の向上が生む従業員負荷という課題
──中川政七商店は、この22年で売上が約20倍という驚異的な成長を遂げています。同社で中田さんは、中川政七商店独自のCRMシステム「MONJU」の開発とともに、CRMデータを活用したデジタルコミュニケーションを手掛けられてきました。最近取り組まれている業務やミッションはありますか。
以前はコミュニケーションデザイン室に所属していましたが、2025年4月から経営企画室に異動しました。経営企画室では、事業部を横断してより広い視点でお客様の体験設計はもちろん、従業員の業務効率化にも取り組んでいます。

異動の理由は、社内で生成AI活用を広めるためです。他の事業部も含めて管轄できる経営企画室のほうが、AI導入を全社的に進めやすいからです。ただし、これまで担当していたデジタルマーケティングは引き続き行っています。
──AI活用の旗振り役となられているのですね。経営企画室に異動したことで、何か変化はありましたか?
コミュニケーションデザイン室にいた頃は、お客様の体験をどう良くするかということが主なミッションでした。その経験を経て経営企画室に異動してからは、その体験を支える従業員の業務にも目を向け、双方が良くなる仕組み作りが必要だと感じています。
そこで現在は、従業員側のUI/UXも改善しながら、うまくサイクルとして回してより良い顧客体験を作っていこうという、表と裏を両立させる取り組みが主なものになっています。より良い顧客体験のために手数を増やすという従来のアプローチから、生成AIを活用し、裏側の仕組みを整えることで持続可能な体験向上を目指しています。
マーケティングにおける生成AIの活用は?
──マーケティングにおける生成AIの活用についてより詳しくお伺いしていこうと思います。その前に、改めて中川政七商店の基本的なデジタルコミュニケーションの方針について教えてください。
「お客様の心に接し、心地よいブランド体験を提供することで、商品、お店、ブランド、会社を好きになってもらう」ことを意味する当社の接客ポリシーである、「接心好感(せっしんこうかん)」の考えが基本となっています。この「接心好感」のブランド体験を、オンライン上でも実現するためのCRMツールが「MONJU」です。
中川政七商店では、従来型の購入金額に応じたランク分けではなく、お客様が中川政七商店をどのように利用しているのか、どんな付き合い方をしているのかという行動データを元に「MONJU」で分析し、類似の購買傾向を持つ8つのクラスターに分類しています。
たとえば、手土産を中心に購入されるクラスター、衣類を中心に購入するクラスターといった具合です。このように、お客様の行動や期待に合わせて振り分けたクラスター別に、コミュニケーションをパーソナライズしています。