プロ野球球団が「縦型ショートドラマ」に取り組むワケ
MarkeZine編集部(以下、MZ):プロ野球史上初となるシーズン連動ショートドラマ『神様、おねがい』が話題ですね。この企画はどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。
林:ありがとうございます。元々、私たちが新しいことにいち早くチャレンジすることを大事にしている中で、SNSで中心的なフォーマットとして確立されている「ショートドラマ」に取り組めないか、という案が挙がったのがきっかけです。

林:実は、背景には球団として長年続けてきた映像制作の歴史があります。横浜DeNAベイスターズが誕生した2011年、ファンを増やすためにチームの舞台裏を捉えたドキュメンタリー『ダグアウトの向こう』を始めました。勝てない時の苦悩や選手の怪我など、活躍の裏にある生の姿を伝えることで、ファンの方々の感情移入を促す狙いがあり、当時は非常に新しい取り組みでした。
ただ、近年では他球団でも同様のドキュメンタリーが珍しくなくなり、我々の中でもややマンネリ感が出てきていました。そこで数年前から「新しいフォーマットはないか」と、「トライアウトで選ばれた選手にフォーカスする」「恋愛リアリティショーを制作する」など、様々な可能性を模索していました。
そうした中で、「シーズンの成績とドラマの内容を連動させたら、おもしろい取り組みになるのでは」というアイデアが生まれました。ファンや視聴者はもちろん、私たち自身も結末が予想できない。そんなおもしろさを伝えられたらと思い、スタートした企画です。
狙いは10代・20代。「物語の引力」で若年層へリーチする
MZ:今回のドラマの主なターゲット層と、その層への具体的なアプローチ戦略を教えてください。
林:主なターゲットは、10代後半から20代の若年層です。この層へのアプローチとして、彼らにとって身近なTikTokやYouTubeで主流の「縦型ショートドラマ」という形式を選びました。これらのプラットフォームが持つ、新規層にリーチしやすいアルゴリズムも決め手の一つです。
また、あえて「ドラマ」にしたのも戦略です。従来のドキュメンタリーで描いてきた「選手の裏側」は、ある程度野球の知識がないと楽しみにくい側面がありました。
そこで今回は、野球を知らない人でも純粋に楽しめる物語を目指しました。企画・脚本には、映画『PERFECT DAYS』で共同脚本を務めた高崎卓馬さんにご協力いただき、野球ファンでなくても思わず見たくなるような質の高いコンテンツを心がけています。
MZ:それだけ本格的に取り組む背景には、やはり若年層のファン獲得に対する強い課題意識があるのでしょうか。
林:はい、それは球団として常に抱いている課題です。ファンの方のデータを見ると、もちろん若い方もいますが、全体の年齢層は年々上がってきています。10年、20年先を見据え、野球が人気コンテンツであり続けるためには、常に若い世代へのアプローチが不可欠だと考えています。
特に10代後半から20代は、直接的な接点を作りづらい年代です。だからこそ、彼らが日常的に利用するSNS上で、数多あるコンテンツの中でも埋もれずに目に留まるものを届ける必要がありました。今回のショートドラマは、まさにその課題意識から生まれた取り組みです。