Z世代は「SDGs教育世代」――知識が芽生えた背景を探る
2017年から順次改訂された文部科学省の学習指導要領で、初めてSDGs(持続可能な開発目標)の理念が正式に盛り込まれた。教育現場では、総合的な学習(探究)の時間などを通じて、小学校から高校まで一貫して持続可能性について学ぶ機会が制度として整えられている。
この改訂により、Z世代(本稿では20〜29歳)のうち2000年代前半以降に生まれた後期層は、小・中・高のいずれかの段階でSDGs教育を受けてきた。一方、Z世代の後に続くα世代(アルファ世代/2010年代初頭〜2020年代半ば生まれ)は、小学校入学時からSDGs教育を受ける「完全SDGs教育世代」でもある。幼児期から絵本やアニメ、地域活動などを通じ、自然とSDGsに触れる機会も多い。
ニッセイ基礎研究所の調査結果を見ると、Z世代は他世代に比べ、サステナビリティに関する学習経験や情報収集の頻度が高い傾向が目立つ(数表1)。教育を通じて「知識としての持続可能性」を理解する基盤は確かに築かれていると言える。Z世代のサステナ行動を考える上で、この背景は避けて通れない重要な前提である。

ただし、知識があることと、それが日常の購買や行動に直結することは別問題だ。そのため、この知識がどのように価値観や行動に影響しているのかを丁寧に見極める必要がある。
意識は高いのに踏み出せない――Z世代に見られる「行動手前層」の実像
前稿で触れた「サステナビリティ意識のセグメント」でZ世代の分布を見ると、「積極実践層」は3割弱、「ライトフォロワー層」は3割半ば、「行動手前層」は3割前後を占める。特徴的なのは、この行動手前層の割合がやや多い点だ(数表2・3)。


行動手前層とは、「行動したい気持ちはあるが、実際には動けていない層」を指す。Z世代は全世代平均よりも「自分の行動がサステナビリティに影響を与える」と考える割合は高い。しかし、その意識が購買行動に直結しているわけではない。たとえば「価格が多少高くても環境配慮型の商品を選ぶ」という実際の行動率は、他世代とほぼ同水準にとどまっている(数表4)。

このギャップの背景には、経済的要因も大きいと考えられる。20代は就業初期の社会人が多く、昇給幅も限られるため、可処分所得が急激に増えることは少ない。その結果、支出を伴うサステナ行動には慎重にならざるを得ない。
つまりZ世代は「やりたい」気持ちはあるが、条件次第でしか動けない層が相対的に多い。従って、マーケティングの実務では、この心理的・経済的ハードルをどう下げるかが重要な設計ポイントになる。