厳しさを増すSDGsの目標達成――マーケティングに問われる「伝える責任」
ここまでは、Z世代に響くサステナブル・マーケティングの仕掛けを見てきた。最後にここまでの内容を総括しながら、マーケティングの根本的な役割――「伝える責任」について、サステナブル・マーケティングの観点から整理したい。
少し話は逸れるが、国連が2025年7月に公表した最新のレポートによれば、SDGs17目標・169ターゲットのうち、2030年までに達成可能な軌道上にある「順調(On track)」なものは、残念ながら約35%にとどまる。残りは「進捗不十分」あるいは「後退」という厳しい状況である。中でも、マーケティングと直結するSDGs目標12「つくる責任、つかう責任(持続可能な消費と生産)」は、冒頭の事例にあったような「食品ロス」対策もそうだが、日本国内でも進捗が遅れている課題領域とされている。
この目標12は、企業にとって「つくる責任」と同時に、明記はなされていないものの、実務的には消費者の「選ぶ責任」に対して「伝える責任」も伴っていると思われる。すなわち、製品やサービスを市場に出すだけでは不十分であり、「なぜ選ぶべきなのか」「選ぶことでどんな意味があるのか」をわかりやすく示すことが不可欠であり、言い換えれば、消費者が持続可能性を意識しながらも、「意識高い」と感じさせず、納得感を持って「選ぶ」環境を整えることも、マーケティングの新たな役割と言えるだろう。
2030年のSDGs目標達成期限、そしてその先を見据えた時、マーケティングは単なる広告や販売促進ではなく、社会と市場をつなぐ持続可能な橋渡し役となることが求められている。
冒頭の好事例のように、消費者に「選ぶ理由」を伝え、その選択をこれからの社会を形づくる一歩に変えること。これこそ、2024年1月に改訂された日本マーケティング協会の新しいマーケティング定義にもある「顧客や社会と共に価値を創造する」ことの実践であり、これからのマーケティング実務に求められる役割のひとつであると言えるのではないだろうか。