現状のAIエージェントが解決できる3つのケース
次に、簗島氏は、マーケティング業務にAIエージェントが既に実装されつつある3つのケースを挙げた。
1. Google アナリティクスを使ったデータ分析の自動化
2025年7月23日に、GoogleはGeminiのような大規模言語モデルとGoogle アナリティクスの接続を可能にする、オープンソースツールを公開した。これにより、Google アナリティクスを自然言語で分析することも可能になる。「GA4になってから使い方がわからない」という声は多い。特に、GA4移行直前に管理職になった人は、部下に「データを出してくれ」と依頼するケースも多かっただろう。
藤原氏も自身の経験を明かす。「私もユナイテッドアローズにいた時、GA4の使い方がわからなくて、部下にお願いするしかなかった。これがなくなるだけでも大きいですよね」
広告運用の自動化・最適化
「まだ国内では事例が少ないものの、アカウントの運用やノウハウの継承の自動化が、広告代理店を中心に増えてきています」と簗島氏。Google広告もAIエージェントでアクセスするシステムの開発を進めており、広告運用の内製化が現実的になってきた。
藤原氏は「ShopifyのAIアシスタント『Sidekick』のようなツールでは、プロンプトで『1年間購入していない人を出して』『その中から男性だけに絞って』『最適なオファー金額を出して』と指示するだけで、今まで3時間かかっていた作業が5分で終わる。来年あたりには、MAのデータ担当者に頼らず業務を進められるようになるのでは」と語る。
簗島氏も「3時間でも早いほうで、実際は2日とかかかっていて、その間にお客様の状態が変わってしまうこともある」と、スピード面での優位性を指摘した。
ただし、藤原氏が「内製化はどれくらいで進むのか」と問うと、簗島氏は「ここ10年ずっと言われてきた話ですが、クリエイティブや運用がかなり自動化されてきているので、ここ数年のうちにはかなり動くだろう」と予測。完全な内製化ではなく、役割分担が変わるハイブリッド型になるのではないかとの見方も示された。
3. RPAを代替する業務自動化
RPAが行っている業務は、AIエージェントによって、より高度に自動化される。
「AIエージェントをRPAと同様のものだと勘違いしている人がいますが、そうではありません。RPAは画面やフローが変わると対応できない脆弱性がありますが、AIエージェントなら柔軟に対応できます。だからこそ、レポート作成など思考をともなう作業が効率化できるのです」(簗島氏)
デモ:たった12分で完結するハイパーパーソナライゼーション
人力では、無理難題だったことの実現を助けてくれるのが、AIエージェントというわけだ。マーケティング業務で、実現が望まれているが難しいことの1つが、「ハイパーパーソナライゼーション」だろう。
膨大な顧客リストの中から、特定の商品に興味を持ってくれる層を抽出し、そのターゲットに最適なコンテンツを提案するには、人の手作業では限界がある。簗島氏は、Geminiとスプレッドシートを使って、ターゲットリストの生成を行うデモを紹介した。
準備するのはGeminiとスプレッドシートだけ
「用意するのは、顧客の興味関心やニーズなどの詳細なデータが入ったスプレッドシートと、Geminiのみ。月額3,000円の課金さえあれば、誰でもできます」(簗島氏)。藤原氏も「Geminiとスプレッドシートさえあればできる、これがポイントですね」と評価した。
デモでは、Geminiにスプレッドシートを投げて「この中から自分たちの商品に興味がある顧客を見つけ出して」とプロンプトを送る。すると、Geminiが様々な仮説を立てながら思考を進めていく。
「『こういう仮説のもと、このキーワードや情報に興味がある人が、御社のポテンシャル顧客では?』といった提案をしてくれます。普段会議室で話し合われているような内容を、AIエージェントが提示してくれるのです」(簗島氏)
この「多段階の思考プロセス」こそが、単なる生成AIとAIエージェントの違いだ。いろいろな仮説を検証しながら、より良いデータを導き出していく。
その後も「最優先のターゲットのCustomer_IDを抽出し、テーブル形式で出力してください」、「この属性の顧客を抽出して」といった対話形式で、必要なターゲットリストを洗練させていく。
リストを作成したら、属性を示した上で「それぞれの属性に対してハイパーパーソナライゼーションを実現するためのメルマガの内容を作成してください」とプロンプトの入力を行った。
