そもそも「マーケティングモデル」自体に課題がある?
藤平:先の話を続けますが、そもそも「インサイトが効かなくなってきたな」と判断するためには、インサイト単体で扱うのではなく、マーケティングのプロセスの中に位置づけられている必要がありますよね。「インサイトは変化していく、弾力性が変わっていく」という前提で、事業の状況やマーケティング戦略と連携しながら、都度最適化できているケースは、自分が知る限りでは少ない気がします。
米田:そうですね、都度最適化できているケースとなると少ないですね。
藤平:それはなぜなんでしょうか? 構造的な問題で、マーケティングのOSからアップデートする必要がありそうですが。

米田:マーケティングは、突き詰めると「方程式」だと思っています。藤平さんがおっしゃるように、この方程式というマーケティングOSにインサイトが組み込まれていない、という問題もあると思います。
さらに言えば、そもそも「マーケティングは方程式である」という考え方が浸透しておらず、多くの企業で方程式が組み立てられていないようにも見えます。マーケティングは優れたマーケターが属人的にやるものではなく、企業で蓄積したナレッジをもとに組み立てられた方程式をメンバーが回していくもの。毎回ゼロベースで「さあやろう!」とするからダメなのではないでしょうか。
藤平:「いいインサイトって何?」という問いは、「クリエイティブに資するインサイトとは?」という、スナップショット的な視点での質問だったのですが。実は、マーケティングモデルそのものの課題であり機会であるというのは、大きな学びでした。
いいインサイトも、広告クリエイティブ次第でダメになる?
藤平:少し話題をずらしまして、米田さんはインサイトを表現する「クリエイティブ」にどのくらい重きを置いていますか? たとえば、テレビCMの良し悪しでインサイトの到達度合いに差が生まれると思われますか?
米田:クリエイティブ次第で1から100までの差が出ると感じています。「何がターゲットの態度/行動変容の鍵になるのか」「どんなアイデアならその鍵を開けることができそうか」を突き止められたとしても、そのアイデアがターゲットに届かなければ話になりません。15秒とか30秒というCMのフレームの中でターゲットを惹きつけ、いかに興味関心を得られるかが勝負です。

「これはすごい、さすが!」と感嘆するようなインサイトの芯を捉えたクリエイティブもあれば、「これはただの製品説明ですよね…」と思ってしまうようなクリエイティブもあります。自分たちがやっとの思いで見つけてきた有意義なインサイトが生かされず、「なんでこんなことに?!」というようなクリエイティブになったときは、泣けてしまいますね。
藤平:がっかりするクリエイティブが出てきたとき、どのようにFB(フィードバック)されますか? 米田さんとクリエイターの間で生じている何らかの乖離を近づける必要があると思うのですが、一方でクリエイティブに対するFBは、得てして主観的になりがちでもあります。
米田:クリエイティブに対するFBの仕方は人によっていろいろあると思いますが、私は「なんとかして、ターゲットインサイトを共通理解にしたい」という思いでFBさせていただいています。
ターゲットインサイトとは、ターゲットとなる人が「なぜ今、どのような態度行動を取っていて、どんなきっかけがあればそれが変容しそうか」という話なので、自分とは違う人の気持ちを理解する必要があるんですよね。人の気持ちを理解するって、誰にでも簡単にできることではないし、概念的にプレゼンされても、なかなか腹落ちしづらいところもあると思います。
ですので、私は、できるだけターゲットのリアルなストーリーを再現して、インサイトを動画として想像してもらえるような伝え方を心がけています。どうしてもインサイトがクリエイターに伝わりにくい場合は、実際にデプスインタビューなどに参加してもらって、ターゲットの生の声を聴いてもらうと「あぁそういうことか!」と理解が深まり、そこからクリエイティブがガラッと変わることもあります。
藤平:表現の根幹にあるはずのものとして、インサイトをクリエイターと「掘り直す」んですね。そのように解像度アップにつながる指摘や機会をもらえると、表現を考え直す際の自由度もキープできてありがたいなと思いました。
