理想とするマーケティングを実現するシステムを短期間に構築
次に、One to Oneマーケティングを実現するための仕組みに関して、IT本部情報システム開発課長の市川氏から紹介があった。

One to OneマーケティングについてCRM推進部の責任者から事前に相談があった際「本当にそんな夢みたいなことが出来るのか?」と思ったという市川氏。「従来よりECではキャンペーンメールを打つ度に高い効果を上げていたのでこれを何とか店舗でも活用していきたい。お店にしか来ないお客様に対しても、メールを媒体とした告知活動と販売促進を行っていきたい。また、コンバージョンレート(実際に買われた率)も可能な限り上げていきたいというリクエスト」を受けた市川氏は、2008年2月ぐらいから情報収集をはじめ、2008年5月からプロジェクトを開始した。
具体的にプロジェクトを進めるに当たっては、フェーズを4つに分け、まず各フェーズを通して再利用可能な顧客最適化DBを構築し、次にモバイルページの顧客最適化、KIOSKでの顧客最適化、電子メール媒体での顧客最適化をそれぞれ並行して行っていった。
HMVジャパンでは、統合データウェアハウスを事前に用意。統合データウェアハウスだけだと特定の分析にはいいが、明細ベースの分析には機能が足りない。そこで、業務DBと統合データウェアハウスを組み合わせて顧客最適化DBを作成した。その上に、メールはAffiniumという製品を、モバイルとKIOSKに関しては自社でアプリケーションを開発して乗せている。これらの開発は、市川氏を中心にISID社の支援を受けて社内開発チームで開発を進め、わずか4か月程度でシステムをローンチした。
わずか数か月で投資を回収する成果を上げる
One to Oneマーケティングでは、顧客ごとに嗜好性を把握し、コンテンツの最適化が必須となる。しかし、人力によるコンテンツの最適化は不可能で、同社ではパーソナライズドメールに関して、Affiniumをベースにマーケティングオートメーションを実現。例えば、メールを使った同社のキャンペーンではキャンペーンのPDCAフレームワークを構築し、最適化からキャンペーンの実行、結果の分析の一連の作業を自動化している。
このようにマーケティングオートメーションという思想でシステムを構築して、パーソナライズドメールを最適化した結果、「従来のマスメールに対してコンバージョンレート(買い上げ率)、客単価ともに飛躍的に向上し、2008年に10月をローンチしてからわずか数か月程度で投資を回収した」と市川氏は強調する。
One to Oneマーケティングを最適化する効果は予想以上に高く、HMVジャパンが上げた成果は驚くほど大きいことがうかがえるだろう。
One to Oneマーケティング実現のための10のステップ
最後に市川氏から、このプロジェクトから得られたノウハウをまとめた「One to Oneマーケティングを実現するための実践的な10のステップ」を紹介。その中には、「成功へのテンプレートは存在しない」など、構築の実務を経験しなければ得られない、これからOne to Oneマーケティングを取り組む会社へ向けてのメッセージが込められていた。
DWHの出来と大量のプロモーションをなるべく人手を借りずに短期間でできる環境を作ることが、成功への鍵だ。1回で成功を目指さず、PDCAサイクルを回してOne to Oneマーケティングを顧客ごとに最適化していく。市川氏が言うように「成功へのテンプレートは存在しない」が、同社の実現例はこれからOne to Oneマーケティングを行う上で、大きなヒントになるだろう。