2026年6月、米国のテキサス州オースティンで開催された「4A's Management Practitioners Forum 2026」は、米国広告代理店協会が主催する経営者・実務者向けのクローズドなフォーラムだ。本稿では、日本でほとんど報道されない同フォーラムの現地レポートをお届けする。米国の広告代理店が今まさに直面している構造的課題と、既にそこから抜け出し始めた企業の実例は、日本の広告代理店やインハウスマーケターが明日から自分ごとにすべき内容だろう。
広告代理店はなぜAIで稼げないのか
「Scaling AI in Agencies(広告代理店におけるAIの導入拡大)」と題されたセッションには、米国広告代理店協会のモリー・ローゼン氏とジェレミー・ロックホーン氏が登壇。協会と米国の調査会社フォレスターが共同で実施した第3回の調査結果を発表した。
ローゼン氏は冒頭でこう切り出した。「今日お伝えするのは良いニュースと、私たちがDoom Loopと呼ぶ問題です。調査の結果は、すべてがバラ色ではないことを示しています」。
まず示されたのは、生成AIがほぼ普及段階に達したという事実だ。採用率は前年の75%から87%に上昇し、実験の段階は既に終わっている。今や問われているのは深度だ。クライアント業務の25%以上に生成AIを活用している広告代理店は全体の約4分の1に留まり、大多数はまだ表面的な使い方の段階にある。
問題はこの先にある。クライアントが広告代理店のAI活用に最も期待しているのは「コスト削減」であり、イノベーションでも成長でもない。ローゼン氏は「私たちは革新的な未来を創るのではなく、底辺への競争をしている」と指摘。広告代理店が期待に応えた結果はすべてコスト削減と見なされ、さらなる値下げ要求が続くためだ。
AI導入によるコスト削減を期待するクライアントが71%、クライアントの期待に生産性の向上で応える広告代理店が83%——この非対称な循環がDoom Loopの正体だ。
測定できないものに値段はつけられない
深刻なのは、61%の広告代理店がAIへの投資コストを自社の事業費として自腹負担している点だ。投資額は前年比56%増と急拡大しているのに、リターンを外部から回収できていない。ローゼン氏は「AIは大量の雑務から担当者を解放すると言われていた。しかし実際は、雑務をより速くこなせるようになっただけだ」と語った。
能力開発の遅れも顕著だ。AIタレントの確保が重大な課題だと認識されながら、それを投資の上位3項目に挙げている広告代理店はわずか13%。「ガバナンスやデータセキュリティがAIの導入・拡大を阻む障壁」と回答した人の割合は半数を超えているが、障壁解消のための投資を優先している広告代理店は11%に過ぎない。
また「AIによるイノベーションの効果を実際に測定できている」と答えた広告代理店はわずか7%だった。「測定できないものに値段はつけられない。だからクライアントはコスト削減の文脈でしかAIを評価しない」とロックホーン氏は指摘する。
日本の広告代理店においても、この問題は他人事ではない。「AIを導入した」という事実だけが評価され、その事実がコスト削減交渉の材料になっている構図は日本でも広がりつつある。「AIへの投資を誰が負担しているか」「AIへの投資が何を生み出しているか」を改めて問い直す必要がある。
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- この記事の著者
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菊池 満長(キクチ ミツナガ)
大手ネット広告代理店に新卒で2006年に入社し、一貫して広告運用に従事。
緻密な広告運用をアルゴリズム化し、誰もが高い広告効果を得られるようShirofuneを2014年に立ち上げ。
2016年7月に国内No.1を獲得し、2022年までに国内シェア91%を獲得。
2023年から海外展開をスタートし、現...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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