営業活動の本質は「最もあり得そうな困りごとの予想」
中村俊一氏は、セールスイネーブルメントプラットフォーム「SALESCORE(セールスコア)」を提供するSALESCOREで、CHROを務めている。
冒頭「真の顧客理解は、なぜ一部の人間に閉じてしまうのか」という問いに対し、中村氏は極めてシンプルな結論を提示する。
「顧客理解を全社に広げることは、再現不可能に近いほど難しいからです。一部の人に閉じてしまうこと自体は構造上あたり前のことであり、それ自体を責めることはできません」(中村氏)
BtoB企業の現場では、分業化が進むことで各職種の専門性は高まる一方、部門ごとの部分最適が起きやすくなっている。かつてのように、1人の営業担当者が飛び込み営業からテレアポ、商談、カスタマーサクセスまで一気通貫で担当していた時代は、顧客の全体像や課題の変化を体感しやすかった。
しかし、プロセスの細分化が進んだ現代では、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスがそれぞれの持ち場で異なる顧客情報を取り扱う。その結果、本来最も重要であるはずの「顧客の問題理解」や「解決策の理解」という共通言語が失われ、情報が分断されてしまうのだ。
社内を見渡せば「あの人に聞けば顧客のことがすべてわかる」というハイパフォーマーは存在する。しかし、その人物が持つ顧客理解は言語化されないまま暗黙知となりやすい。中村氏はCHROの立場から「研修や教育だけでベテランが長年培ってきた暗黙知を再現させることは難しい」と話し、組織的な解決策の必要性を訴える。
では、顧客理解に優れ、高い成果を上げ続けるハイパフォーマーの頭の中では何が起きているのだろうか。中村氏は「営業活動の本質とは、与えられた情報から最もあり得そうな困りごとを予想することである」と定義する。
営業活動のプロセスにおいて、準備段階では公開情報や過去の接点履歴から仮説を立てる。テレアポで直接ヒアリングを行うことで情報が増え、初回商談に進むと顧客の真意や関係者の情報が得られる。このように、商談が進むにつれて情報量が増え、顧客の困りごとに対する予測(推論)の精度が上がっていくのが営業のメカニズムだ。
ハイパフォーマーの頭の中では何が起きている?
ここで中村氏は、とある企業のトップセールスが実践していた思考プロセスを一例として挙げる。
多くの組織では「顧客に電話をかけなさい」「ニーズを聞き出しなさい」といった行動の指示やトラッキングのみを行いがちだ。しかし、成果を分けているのは行動そのものではなく、行動の裏側に存在する莫大な情報と、個人の経験に基づく解釈の組み合わせなのである。
「1つの仮説の背景には、これだけの情報と解釈の連鎖が存在しています。トップセールスは脳内でこの推論を膨大に積み上げて行動しています。SFAなどを用いれば、行動の量を揃えること自体は難しくありません。本当に難しいのは、その裏にある情報と解釈、すなわちコンテキストを組織全体に再現させることなのです」(中村氏)
顧客の課題の源泉を紐解くフレームワーク
複雑なコンテキストを解き明かし、組織的に再現可能な形にするため、SALESCOREでは営業活動を次の3つの層で整理することを提唱している。
1. 行動の層(業務プロセス)
テレアポ、初回商談、仮説立案など具体的な営業行動の層。
2. 価値合意の層(購買意思決定ロジック)
なぜその行動が価値として成立するのか。顧客の課題とソリューションが合意された因果関係の層。
3. 文脈の層(情報と解釈)
価値合意の背景にある情報と咀嚼の連鎖。課題が発生した源泉の層。
特に重要なのが「2.価値合意の層」と「3.文脈の層」の構造化だ。中村氏は「課題とは宙に浮いて存在するものではなく、必ず顧客の業務プロセスに紐づいて発生する」と説明。顧客の課題の源泉を紐解くためには、次の「課題の5層因果連鎖」を押さえる必要があるという。
たとえば、あるアパレルEC企業に対して物流サービスを提案する場合を考えてみよう。単に「物流コストを削減しませんか」とアプローチしても響かない。「EC市場の成長(外部環境)」により「自社ECの売上比率が高まる(事業モデル)」中で「出荷量の急増にともなって関西の配送センターの派遣社員比率が上昇し、繁忙期の出荷ミスが発生している(業務プロセスと課題)」という因果関係を捉えて初めて、真に刺さる提案シナリオが描ける。
再現性を高めたければAIに解釈の余地を与えるな
ハイパフォーマーは過去の失敗や成功体験を通じて、この因果連鎖を感覚的に脳内で処理している。しかし、新入社員や経験の浅い営業担当者にこれを言葉だけで伝え、数ヵ月で習得させるのは現実的ではない。だからこそ「AIを活用した構造化が必要になる」と中村氏は強調する。
昨今、生成AIを営業活動に導入する動きが急速に広がっている。しかし「ChatGPTやClaudeなどのAIツールを全社員に付与したが、成果につながらない」「商談の文字起こしデータをAIに投入して分析させても、出力内容が浅く安定しない」という悩みを抱える企業も多い。これに対し中村氏は、AI活用における致命的な誤解を指摘する。
「商談データをそのままAIに投げて『解析して仮説を出してくれ』と頼むのは、AIに解釈の丸投げをしている状態です。AIを活用して再現性を出すためにまず行うべきは、AIを使うことではなく、成果が生まれる構造を人間側が明確に定義し、AIに解釈の余地を与えないことです」(中村氏)
トップセールス並みの事前準備を誰もができる
SALESCOREでは、過去の膨大な商談データからコンサルタントの主観を排し、実際の商談で発生した「課題と解決策の紐付け」を客観的に抽出して構造化した「バリューマップ」を構築している。その上で、AIに対して「この構造に沿って情報を整理し、仮説を抽出しなさい」と指示を固定化しているのだ。

具体的には、AIエージェントにWeb上の公開情報、決算資料、SFA内の過去の接点履歴(一次データ)をディープリサーチさせ、顧客の「事業モデル」と「業務プロセス」をマッピングさせる。そして構造化したバリューマップと照らし合わせることで、AIは人間が求める最高精度の仮説や提案ストーリー、商談資料の下案を安定して出力できるようになるという。
人間が何時間もかけて行っていたリサーチと複雑な推論の組み立てを、あらかじめ構造化された枠組みに沿ってAIに行わせることで、経験の浅い営業担当者であってもトップセールス並みの事前準備と高い解釈精度をもって商談に臨むことが可能となる。
整理したコンテキストはマーケにも使える
コンテキストの整理は、一朝一夕にできるものではなく、相応の思考体力と適切なプロセスを必要とする。しかし、中村氏は「このコンテキストを1度整理してしまえば、あらゆる営業・マーケティング活動の場面で絶大な価値を発揮する」と語る。
コンテキストの整理がもたらす効果
マーケティングへの展開
顧客の真の課題と解決策の因果に基づき、説得力の高いLPの制作、バナー広告の訴求設計、ターゲット層に刺さるウェビナーイベントの企画が可能になる。
インサイドセールスへの展開
顧客の業界や業務プロセスに応じた精度の高いアプローチリストの作成と、キーパーソンの関心を引く提案ストーリーの自動生成を実現する。
フィールドセールスへの展開
商談前の仮説立案シミュレーションだけでなく、商談後の録音データをバリューマップと照合することで「どの課題に触れられなかったか」を客観的に評価するコーチングエージェントとして機能する。
イネーブルメント・育成への展開
新人教育において、バリューマップを基盤としたAIロープレを実施することで、ベテランの思考プロセスを短期間で疑似体験させ、オンボーディング期間の短縮につなげられる。
案件推進への展開
案件の停滞を検知し、次に取るべきアクションを提案できるようにする。
講演の最後に中村氏は、参加者に向けて次のように呼びかけ、セッションを締めくくった。
「真の顧客理解を再現することは確かに難しく、非常に泥臭い作業です。しかし、成果を生む構造を解き明かし、それを共通基盤としてAIと協力していく体制を整えれば、組織の営業生産性は劇的に変わります。まずは自社の商談データの中にどのような『価値合意』と『情報×解釈の連鎖』が存在するのか、その構造を可視化することから始めてみてください」(中村氏)
トップセールスの「仮説構築」を、AIで営業組織の標準に
SALESCOREの「Value Intelligence」は、企業の公開情報や過去の接点情報をもとに、顧客の事業・業務を深く理解し、課題仮説や提案シナリオの構築をAIで支援します。経験や勘に頼っていた商談前の仮説構築を、誰もが高い精度で実践できる営業組織へ。
「Value Intelligence」の詳細はSALESCOREのWebサイトをチェック

