Z世代はAIを使う。しかし「人間」を信頼する
なぜ今、こうした動きが出てきているのか。一つの手掛かりになるのが、AIを最も使いこなしているはずの若い世代の態度である。
Gallupなどが2026年2~3月、米国の14~29歳1,572人を対象に実施した調査では、Z世代の51%が生成AIを少なくとも週1回利用している。22%は毎日利用している。
ところが、AIへの信頼はそれほど高くない。働くZ世代に「どの仕事を信頼するか」と聞くと、AIを使わず人間だけで完成させた仕事を信頼する人は69%、AIを補助的に使った仕事は28%、AIだけで作った仕事はわずか3%だった。AIを使うことと、AIが作ったものを信頼することは別なのである。
この違いはマーケターにとって重要だ。「若者はAIネイティブだから、AI広告にも抵抗がない」という単純な図式は成立しない可能性がある。
「労力」が感じられない? AI表示で購買意向が下がる理由
消費者研究からも同様の傾向が見え始めている。
2026年に発表された食品広告を使った研究では、広告画像に「AI-generated」と表示すると、消費者の購買意向が低下することが3つの実験から示された。
研究が明らかにした心理的な流れが興味深い。AI生成と知ることで消費者は「制作にかけた労力が少ない」と感じ、それが画像の真正性や「おいしそう」という知覚を弱め、最終的に購買意向を下げる。さらに価格プレミアムがある商品では、このマイナス効果が強くなることも確認された。
2026年に発表された別の広告研究でも、AI生成であることを開示すると広告への評価が低下し、その背景にはAIに対する「不気味さ」があることが示されている。ただし、ブランド力が強い場合には悪影響が弱まるという。
EUでも2026年8月からAI Actの透明性要件が適用され、ディープフェイクなど一定のAI生成・加工コンテンツには明確な表示が求められるようになった。AI生成であることを消費者が知る機会は、今後さらに増えていくだろう。
「オーガニック」「フェアトレード」に続くブランドプレミアムになる
ここで思い出したいのが、オーガニックやフェアトレードの歴史である。
完成したコーヒー豆を見ても、生産者に適正な対価が支払われたかは分からない。野菜を見ただけで、どのような農法で作られたかを判断することも難しい。だから認証が生まれた。商品そのものからは見えない「制作プロセス」を可視化し、それを購買判断の材料へ変換したのである。
生成AIも同じ問題を生み出している。美しい商品写真を見ても、それがスタジオで10人のスタッフによって撮影されたのか、一人のマーケターが生成AIを用いて30秒で作ったのか、消費者には分からない。だからこそ、「Human-made」という表示に意味が生まれる。
もちろん、すべてのAI利用をやめる必要はない。むしろMade Withの5段階表示が示すように、今後問われるのはAIを使ったかどうかではなく、「ブランドがどこを人間に任せ、どこをAIに任せるのか」という境界線の設計なのだろう。
AIによって制作コストが限りなく下がっていくほど、時間をかけて撮影すること、本人がコピーを書くこと、実在するモデルを起用すること、人間のクリエイターに報酬を払うことが、逆説的に贅沢になる。
「Handmade」が大量生産時代に価値を持ち、「Organic」が工業化された食品市場で価値を持ったように、AI生成が当たり前の時代には「Human-made」がプレミアムブランドを示す新しいラベルになるのかもしれない。
マーケターにとって重要なのは、「AIを使うべきか」という問いだけではない。AIで何でも作れる時代に、あえて人間に作ってもらう価値を、ブランドはどう説明するのか。次のブランド競争は、そこですでに始まっている。
