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国家という“ブランド”を維持するために、テレビは必ずしも必要ではない/グーグルがテレビCMを行う理由

 アタラ合同会社が運営するメディア「Unyoo.jp」から、コラムやキーパーソンへのインタビュー記事をピックアップして紹介する本連載。今回は、「テレビとブランドの関係性の歴史と変化」に関するコラムの要約版です。

国はテレビ局を見捨てたのか

 仕事をしていると、人によっては、霞が関の官僚に会うことがあると思う。たとえば、私の場合、私の勤務する会社(アタラ合同会社)がデータエクスチェンジコンソーシアムに所属していて、私自身はアトリビューションやDMP(Data Management Platform)に関する分科会のリーダーも務めている。そのデータエクスチェンジコンソーシアムが経済産業省のデータ利活用促進支援事業に選ばれたこともあり、その集まりなどで、官僚を見かけることがある。

 また、私はあるクライアントのDMP、及び、それを利用した新しいビジネス構築のプロジェクトをコンサルティングしていて、大手SIerと一緒にいくつかの関係省庁にアポを取り、政府の方針についてヒアリングして回ったこともある。個人情報保護や通信の秘密などの観点で、今後のプロジェクトをどのように進めるべきか悩んだので、政府の方向性を確認しておきたかったのだ。そのような中で、ある官僚とちょっとした世間話をしているとき、自分が気になっているテレビ業界の今後について質問したことがある。

 「政府としては、2020年にむけてスーパーハイビジョン(4K・8K)とスマートテレビを一体として普及させようとしてますよね?これって、いまのままだと、テレビ局の為になってないと思うんですよ。このままだと、テレビ産業の衰退を加速させるだけなんじゃないですか。その辺について、政府としても、きちんと振興策とか作ってくれないとダメですよ。ある意味、国の怠慢じゃないですか?」

参照:「放送サービスの高度化に関する検討状況」(PDF)
   「2023年テレビCM崩壊ー博報堂生活総合研究所の暗示」

 すると、その官僚は、あくまでもプライベートな会話での個人的な見解だとした上で、こう喝破した。

「国としては、テレビ局を見捨てたんだと思いますよ」

 そして、続けた。

「たとえば、もし万が一、30年後に、NHKは例外として、民放テレビ局がすべて潰れて1社も残ってなくても、国としては困らないようにしないといけない」

 さらに、持論を展開した。

「国家が、国民への情報伝達手段、あるいは、情報統制装置として、テレビに頼る必要がなくなったということですよ。共同幻想である国家、国家というブランドを維持するのに、テレビは必ずしも必要ではない。インターネットの登場で、そうなってしまった」

 おそらく、すべての官僚がこのような意見を持ってる訳ではないだろう。そして、どっちかといえば、過激な意見なんだと思っていた。でも、2015年2月21日付日経電子版に「NHK受信料、テレビない世帯も  ネット拡大で検討ー総務省が見直し着手」という記事が出て、私は「あれ、もしかして、国は本当に民放テレビ局を見捨てたのかな」と思った。

 その記事には、「NHKのインターネットサービスの拡大を踏まえてテレビのない世帯からも料金を徴収する検討を始める」と書いてある。つまり、テレビがない世帯を異例として扱うのではない。政府は、テレビのない世帯が、当然のこととして、普通にあると考えていて(おそらく、政府の調査でも年々増えているのだろう)、今後は、国民への情報伝達手段としてインターネットサービスを使う必要があるということ。あるいは、主軸をインターネットに移していく。

 これまでは、テレビに頼ってればよかったのだが、今後はテレビは必要なくて、インターネットを使うのだから、当然、テレビを持たずにインターネットだけを使っている国民からも料金を徴収しようというわけだ。もちろんテレビが亡くなるということではない。ラジオや新聞が存続しているように、今後も一定のニーズがあるだろう。でも、しかし、国の情報伝達手段の重心は、インターネットに移り始めたようだ。

国家にとって情報は生命線

 ところで、私がいうまでもないことだが、国家という生き物にとって、情報コントロールは非常に重要で、生命線だといっていい。情報統制を間違えると、国家は崩壊してしまうからだ。たとえば、2010~2011年のチュニジア「ジャスミン革命」で23年間続いた独裁政権が崩壊したことは記憶に新しい。

 この革命は、反政府運動がFacebookなどのインターネットを通じて拡大し、政府打倒の原動力になった。そして、それはアラブ諸国に拡散し、「アラブの春」といわれる大規模反政府デモにつながっていった。当時、インターネットの力に恐れ慄いた識者たちがテレビに出演し、さまざまな意見をしていたのを覚えている。その光景をみて、私は1989年「ベルリンの壁崩壊」を思い出していた。

 当時、ベルリンの壁の近くに住んでいる東ドイツの住民の中には、西側の放送局の電波を受信している人たちもいたらしく、隠れて西側のテレビやラジオから情報を得ていた。その情報から西側諸国の様子を知るに至り、貧困や経済停滞に苦しむ自分たち東側の状況と比較し、華やかな西側への憧憬がうまれていた。そのようにして、テレビ・ラジオからの情報が徐々に革命への原動力になった、という話があった。つまり、昔は、国の存亡にテレビ・ラジオが大きく影響していた訳だ。このような「ジャスミン革命」「ベルリンの壁崩壊」事件から、国家の存続には情報コントロールが必要なのは明らかだ。

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2015/04/20 08:00 https://markezine.jp/article/detail/22344

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