顧客接点の多様化と共に、LINE・アプリ・メールの活用が課題に
MarkeZine編集部(以下、MZ):このたび、エクスペリアンジャパンさんでは、「メール&クロスチャネルユーザー動向調査 2017年版」を公開されましたね。これはどういった調査なのか教えてください。
清水:本調査は、企業とユーザーが接するコミュニケーションチャネルの利用実態をまとめたもので、今回で3回目の調査となります。従来、デジタルのコミュニケーションチャネルといえばメールが主流でしたが、今はスマートフォンというデバイスがあらゆる世代に浸透し、チャネルがLINEやSNSなどさまざまな方向に広がっています。中でも企業とユーザーが1対1でコミュニケーションできる「メール」「LINE」「アプリ」は注目されています。
こうした中、当社にも「LINEやアプリを使った顧客コミュニケーションを取りたい」というコンサルティングの依頼が増えてきました。そこで、「ユーザーはどのようなスタンスでどのチャネルを使い、どう感じているのか」という実態を調べる必要があり、3年前からこの調査を開始しました。
川又:調査対象としたのは、スマートフォンの使用歴1年以上の10代から60代の一般ユーザーです。調査内容については毎年見直しを図っており、これまではメールコミュニケーションが中心でしたが、近年のチャネル多様化と企業の関心の強さを受け、今年は「メール」「LINE」「企業が提供するスマートフォンアプリ」と3つのチャネルの利用実態を調査しました。
また今回の調査では、各チャネルの優劣を決めず、特徴をフラットに捉えることが前提にあります。そのためマーケターの方には、顧客の「獲得」「育成・定着」「離反抑止」という3つのフェーズの中で、ユーザーがどんなスタンスで各チャネルを使っているかを知り、今後の戦略に生かしていただきたいと考えています。
LINE・アプリ・メールの各チャネルの特徴は?
MZ:それでは具体的にその成果を伺います。3つのチャネルで、どのような違いがあるのでしょうか。
清水:この調査では、今説明した顧客の「獲得」「育成・定着」「離反抑止」の3フェーズにおいて、ユーザーが各チャネルのコミュニケーションに対しどのような印象を持っているかを聞いています。
調査結果からチャネルによりその特性がはっきり分かれていることがわかりました。具体的には、LINEは「ゆるいつながり」、アプリは「既存ユーザーとの関係の維持・強化」に向いており、メールは「幅広い層を“面”で押さえることができる」ことが判明し、さらに細かく見ていくと、さまざまな違いも見えてきました。
MZ:チャネルによってコミュニケーションの目的も違ってくるのでしょうか。
清水:LINEは新規のユーザーの獲得向き、アプリはインストール後のコミュニケーション次第になりますが、離反抑止向きといえるでしょう。いずれにせよ、スマートフォンというユーザーのプライベート空間に入っているので、そこで定期的に接触できるというのは強いです。
メールは、アプリほど強固な存在ではないけれど定期的な接触が望めますし、内容を読み込んでいるユーザーも多いです。
対照的な特徴を持つ、LINEとアプリ
MZ:それぞれのチャネルの特徴を教えてください。
清水:まずLINEについては、企業や商品そのものに興味がなくても接点を持つことができるチャネルです。その反面、ユーザーとのつながりは弱い。実際にユーザーに聞いたところ、実は「なぜこの企業と接点を持ったのかわからない」「LINEのコミュニケーションで、購買などの具体的な行動を起こしたことはない」などの回答が見られました。
特に、若年層に強く定着しているチャネルなので、メールやアプリでリーチできない層にアプローチするには有効でしょう。そしてLINEと対極にあるのがアプリです。
MZ:対極にあるとはどういうことでしょうか?
清水:アプリはまず、「インストールする」までのハードルが最も高いという特徴があります。それでもインストールしたきっかけとしては、店頭で勧められたケースが多く、実際にユーザーもその企業や商品のことは既によく知っていて、お得情報や割引サービス、クーポンなどを求めてインストールしているようです。そのため、購買などの行動につながりやすく、実際に来店回数や購入回数が増えたというポジティブな結果も見られました。
その反面、期待していたような情報がないと失望するといったネガティブな方向にも振れやすい。良くも悪くも、ゆるいつながりでポジティブ、ネガティブ共に振り幅の少ないLINEとは対照的です。
アプリとLINEの中間を行くメール
MZ:メールはいかがでしょうか。
清水:メールはまさにLINEとアプリの中間で、顧客獲得から育成・定着、離反抑止とあらゆる面を押さえられるチャネルです。企業と接点を持った動機も、「元々商品やサービスに興味があったから」という回答が15.6%で、これはアプリの19.8%、LINEの8.8%の中間に位置しています。
またメールの場合、コンテンツによって企業の印象が良くなることもあるようです。たとえば商品の詳しい解説やアピールポイントを知ることで行動を誘発しますし、読み物として面白いというコンテンツにしても、そのコンテンツがきっかけで企業・商品のことを好きになるユーザーもいます。
川又:補足すると、実は「メール」と「LINE・アプリ」では差があります。最大の違いは、他の2つのチャネルと比べ、メールは届けられる情報が圧倒的に多いことです。「ユーザーに何かを知らせたい」のであれば、メールはとても有効な手段といえるでしょう。実際、商品やサービスを購入するきっかけとして最も多いのはメールという結果が出ました。
また、1通当たりの配信コストとリーチ力も違います。メールは、LINEやアプリと比べると幅広い年代にリーチできるチャネルであり、配信コストも安価です。加えて、バラエティ豊かなコンテンツを展開できるので、顧客の獲得から育成・定着、離反抑止などすべての面に強いと考えられます。
一方でメールには、届いたことが認知されにくいというデメリットがあります。LINEやアプリはプッシュ通知やアイコンへの通知ができるので、その点が特徴です。メールのコミュニケーションでは、他チャネルより一層、他社のメールに埋もれにくい件名や内容、配信タイミングの工夫が必要です。
企業からのメッセージがユーザーに嫌われる理由
MZ:3つのチャネルで離反してしまったり、またはネガティブな印象を持たれたりするのは、どのようなきっかけが多いのでしょうか。
清水:実はどのチャネルも同じで「送られてくるメッセージの回数が多いこと」、つまりユーザーが「煩わしい」「うざい」と感じてしまうほどの頻度になると、その企業に対してネガティブな印象を持つようです。
MZ:ユーザーが煩わしさを感じる頻度のしきい値はどれくらいでしょう。
川又:企業の方からも、「頻度をどれくらいにしたらいいか」という相談をいただくのですが、正直にいえば「正解はない」と思っています。というのは、頻度というのは単純な回数ではなく、ユーザーの状態によるところが大きいからです。
MZ:ユーザーの状態を把握していないことが問題なんですね。
川又:そうですね。実際にサービスを利用している際に送られてくる情報が、そのサービスの利便性を高めたり、不明点を解消する内容であれば、頻度が高いと思われる可能性はかなり低いと想定できます。難しいのは、ユーザーがサービスを利用していないなど、状態が定かでない時です。
自身に関係がない企業目線のプロモーションに類する情報ばかりが送られてくると、自然と「頻度が多くて役に立たない情報」と捉えられてしまうはずです。この点についてさまざまな対処が考えられますが、男性には男性向け、女性には女性向け、などセグメント配信をするといった基本的な対処から、昨今あるDMPなどを導入してユーザーの行動実態を把握し興味・関心度が高まっている状態か、何に興味があるかを見極めるなどの方法をとることができるはずです。
肝要なのは受け手側・ユーザー目線であるかであり、企業都合・企業目線だとユーザーが感じれば、それは自分によって無益な情報が頻度高く提供されるという印象になりかねません。
それ以外にも、コミュニケーション頻度が高くて迷惑がられるケースの1つに、「メールで流した情報と同じメッセージが、アプリやLINEでも流れてくる」というものがあります。
企業の事情として「各チャネル別に運用部門が分かれている」「グローバル企業において本国指定の施策を実行しなければならない」などが挙げられます。ユーザーにとってみればどのチャネルからであっても、同じ企業としか見られません。部門横断でコミュニケーションがどうなっているかを把握できる体制構築や、プロジェクトチームの発足などを通じ、「クリティカルな要素は省く」地道な努力が必要になると考えられます。
インストールを含めた全体的なコミュニケーション設計が成功の鍵
MZ:自分の身に置き換えてみると、やはり「もう少し工夫してくれたらいいのにな」と思うことがあります。最近、ポイントカードをアプリに置き換える企業が増え便利だと思う反面、更新やインストールに時間がかかって不便に思うこともあります。
川又:IDの統合という観点からすれば、アプリに集約するのは非常にいいのですが、店頭でないとカードからアプリに切り替えられないなど、ユーザーに不便を強いる環境になっていることもあります。テクノロジーを導入するメリットとデメリットを踏まえてコミュニケーションを設計できると良いですね。
MZ:テクノロジーやコミュニケーション設計を含め、今後この調査結果をコンサルティング事業にどのように役立てていくのかお聞かせください。
清水:LINEを使いたい、またはアプリを使いたいというところから相談に入るケースが多いですが、やはりチャネルありきではなく、「ユーザーとどういうコミュニケーションを取りたいのか」から入るべきだと考えています。その点では、テクノロジーの活用も求められますし、組織に切り込むこともあるでしょう。入り口はともかく、根幹にある「ユーザーとのコミュニケーション」という原点に立ち返り、この調査結果を踏まえて企業のサポートをしっかりやっていきたいですね。
川又:企業の理想と現状の間にはギャップがあります。それをどう埋めるかという話になった時に、やはり方法論やチャネルありきではなく、一歩引いて考えることが必要です。
その際、あくまで客観的な立場に立つことが当社の役割だと思います。完全に企業目線になるのではなく、ユーザーの立場にも立ちつつ、最適なメッセージ、コミュニケーションを企業と一緒に考えていく。そこで今回の調査結果が確実に役立つと思います。
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