デジタルCRM実装中のケンタッキーフライドチキン
オイシックスは元々、ネット発の企業としてデータ取得や活用に長けており、現在はどちらかというとブランディングに注力しているイメージがある、と伴氏。「ブランディングによって、顧客時間のサイクルを早く回せるといった利点があるか?」との問いに、奥谷氏は「ブランド体験が豊かになれば、購入前や後の接点の強化に効いてくる」と答える。

特にオイシックスではデータドリブンが進んでいる分、データに酔いしれてしまいがちなので、社内では体験の重要性を説いているのだという。逆に良品計画のようなブランドが強い企業ではブランドに酔ってしまうので、データの大事さを訴える、と奥谷氏。
では、オイシックスのBtoBコンサルティング事業として奥谷氏のアドバイスを受けている日本ケンタッキー・フライド・チキンでは、現在どのようなCRMが展開されているのだろうか? 2013年に同社に入社した塩谷旬氏は「当時からデジタルを使ったCRMにチャレンジしようとしていましたが、入社2年目に奥谷さんの考えを知って顧客時間の概念を導入し、今まさに実装を進めている」と語る。
ネット企業と違い、リアル店舗が中心の外食産業では、昔ながらの方法では取得できるデータが極めて少ない。その中で同社は以前から、購入ベースの共通ポイントプログラムを運用し、さらにメルマガや公式アプリ、Facebook、Twitter、LINEも活用してきた。
CRM戦略を転換し、顧客ID統合を目指す
ただし、すべての施策が個別に走っており、かつ購入ベースの会員の増加を目指していたため、豊富に得られるはずの行動データを活かせていなかった。また、購入データとSNS上での行動データがひもづいていないため、カスタマージャーニー全体を捉えた体験の創出や、優良顧客の把握も難しい状態だった。
そこでまず、同社が活用するデジタルメディアを、ユーザーのロイヤリティの高い順に整理。「最も優先すべきは自社のメルマガ会員だろう」という考えに行き着いた。

その上で、どうしたら顧客時間を有機的に捉えたアプローチが可能になるかを検討。「自社のデジタル資産を最大限に活用し、エンゲージメントを深めるには、まず購入ベースのCRM戦略を転換して顧客IDを統合し、その上で顧客時間の考えに基づいた体験を提供する、二つの段階が必要だとわかりました」と塩谷氏。
1つ目のCRM戦略の転換とは、購入ベースのCRMを、デジタルCRMへと変えることだ。メルマガやアプリ、自社サイトやSNSでのデータをすべてデジタルCRM基盤として蓄積し、購入データと連携することで、顧客理解を深めていく。その過程で、顧客IDの統合は必須項目だった。
それを実現した後に、2つ目の顧客時間の考え方である「検討~購入~消費」の一連の行動データに基づいた体験の提供が可能となる。具体的には、「検討~購入~消費」の各フェーズでオンラインとオフラインを行き来するユーザーを連続的に捉え、それぞれのニーズに合った顧客体験を提供していくこととなる。
