アクセス解析に基づくUX改善には限界がある
三宅:今日は、オリジナルブランドとして化粧品を開発・販売している「DAZZSHOP」で、オンラインショップを担当されている高橋さんにお話をうかがっていきます。
高橋さんは、広告施策やUX(ユーザ体験)の向上など総合的なマーケティング活動に取り組んでいらっしゃいます。その中で、弊社が提供している「ユーザグラム(Usergram)」というツールで、顧客のデジタル行動の流れを一人ひとり観てUX改善に活かす手法(=デジタル行動観察手法:参考記事)をどのように実践し、マーケティング課題に対峙されているのか、お聞かせいただければと思います。
はじめに、デジタル行動観察に取り組まれる以前に御社が抱えていた課題についておうかがいします。
高橋:今は単純に広告を出せば売れる時代ではないので、サイト内外のUX改善が重要だと考えています。もともと当社ではGoogle Analyticsで計測できる数字をもとに仮説を作って施策を行ってきたのですが、なかなか思うような効果が出なかったんです。
試行錯誤しながら「アクセス解析の数字だけで判断していたために、施策がお客様のリアルな声とずれてしまっているのでは」と感じていました。この課題意識のもと、数字だけではなく、実際のお客様の行動に基づいて、クリエイティブやサイト内の動線を改善してみたいと考えました。
お客様の行動は「想定外」だらけだった!
三宅:そこで、デジタル行動観察ツール「ユーザグラム」を導入して、お客様の動きを一人ひとり、具体的にウォッチされたわけですが、何か発見はありましたか。
高橋:お客様一人ひとりの動きを実際に観察してみてすぐわかったのが、「お客様は売り手の想定どおりには動いていない」ということです。最も衝撃的だったのが、一度サイトに入って来たのに、離脱して検索サイトの自然検索画面に戻ってから、「DAZZSHOP アイシャドウ」「DAZZSHOP アイライナー」などの商品ジャンル名で検索して再びサイトに戻ってくるという行動が多く見られたことです。
三宅:それはちょっと非効率的な感じがしますね。ユーザーはどうしてそのような動きをしていたのでしょうか。
高橋:原因は、トップ画面の構成にあったと考えています。当社サイトでは、ブランドの世界観を提示していく姿勢を大切にしているため、その世界観を表現する大きなバナーをトップに貼っていたんですね。バナーを起点に回遊して目的の商品にたどり着くとばかり思い込んでいたのですが、お客様にとってこのショップにどんなジャンルの商品があるのかがわかりづらかったようなのです。
三宅:検索エンジンに戻られてしまうと、購入の熱が冷めて離脱されてしまう可能性もありますよね。
高橋:そうです。本来であれば、トップから商品ジャンルごとの下層ページへ円滑に遷移して、商品を購入してからさらに回遊していただくのが自然な流れで、売上にもつながるはずです。そこで、トップ画面のUIを大幅リニューアルして、商品ジャンルをしっかり見せる構成にしました。
お客様行動を捉えたシンプルな改善で売上140%を実現
高橋:改善後、再度お客様の行動を観察してみると、検索エンジンにいったん戻ってサイトに入り直すような動きはまったくなくなり、購買率も上がりました。
その後、他にもサイトのUIをスピーディーに改善していき、その結果四半期ベースの売上も改善前の期と比べて140%になったんです。修正したポイントは本当にシンプルで大したコストもかからないのに、効果は絶大でした。
三宅:おっしゃるとおり、コストを掛けずに劇的に改善できるのに、お客様の行動を正しく理解できていないために見逃してしまうことはよくあります。
高橋:実は私、Google Analyticsでサンプリングされた数字は「信じていない」んです。サイト解析には使っていますが、ある程度全体の傾向をつかむためのツールと割り切ったほうがいいと思うんです。サンプリングされた数字は、具体的なお客様の行動に関する事実情報ではないので、施策の根拠としては不十分なものだと考えています。
だからこそ、一人ひとりのお客様の行動を、自然検索やウェブ広告などの流入からサイト内の動きまで、一気通貫で見てみてたい、とかねがね思っていました。「お客様がサイト内でどう行動したのか」を可視化して、直感的に見えるツールが欲しかったのです。そうすれば、「お客様についての事実情報に基づいて判断する」という本来のマーケティングができるなと。そんな中でご紹介いただいたのが、ビービットのデジタル行動観察ツール「ユーザグラム」でした。
もともと、弊社では広告効果測定ツール「ウェブアンテナ」を導入しており、流入施策と実際の購入にひもづいた正確なコンバージョン数を計測していました。つまり、お客様行動の「流入」と「購入(コンバージョン)」の部分を、ウェブアンテナでひもづけることで、定量的にマーケティング施策を検証できていたので、「ユーザグラム」の導入によって定性的な検証が加わったことになります。
三宅:なるほど。お客様一人ひとりの行動にもとづいて、数値をもとに定量的に検証しつつ、数値では見えてこない新たな仮説を定性的に発見することもできるようになったわけですね。
「お客様のために」が裏目に出ていたことも
高橋:行動観察に基づく仮説発見といえば、こんなこともありました。ユーザグラムでページごとの滞在時間がわかるのですが、「ご利用ガイド」に3分以上時間をとっているお客様が多かったんです。
「ご利用ガイド」は商品の送料やお届け時間帯、返品などに関するコンテンツなので、熟読せずに必要なところをぱっと読むのを想定していました。しかし、お客様が3分も読み込んでいるというのは、コンテンツに問題があることを示唆しています。「ご利用ガイド」の表現が詳しすぎて読みづらいのだと仮説を立てて、簡易化してみたところ、滞在時間を短くすることができました。
「ご利用ガイド」は、「お客様にもれなく丁寧に説明をしよう」と当社として力を入れていたところでした。その努力が逆に、お客様が必要としているガイド情報を見つけにくくしてしまい、利便性を下げてしまっていたのです。反省するとともに非常に恥ずかしくなりましたね。
このように、デジタル行動観察で仮説を発見し、それをもとに施策を行って、その結果を再度デジタル行動観察で検証して、さらに新たな仮説を作って施策を細かく改善する、といったサイクルを細かく繰り返しています。
顧客の「思ってもみなかった行動」がUX改善のヒントに
三宅:なるほど。高橋さんは、具体的にユーザグラムをどのように業務に組み込んでらっしゃるのでしょうか。
高橋:朝出社してすぐに前日の売上を集計してから、「どういった方が買ってくださったのか」をデジタル行動観察で調べるんです。基本的に、毎日100人ほどのお客様の動きをチェックしていますね。正直、どれだけ見ても飽きません。必ずと言っていいほど、お客様の「思ってもみなかった行動」を発見できて、サイト構造や施策が抱えている問題に気づくきっかけになり、販売成果を向上させられるので。
三宅:ECでありながら、実店舗のようにお客様の行動を観察することで、施策を改善していくわけですね。ちなみに、今朝はお客様のどのような動きをウォッチされたのですか。
高橋:最近、Paidy(ペイディー)という後払い決済を導入したんですね。決済全体に占めるPaidyの利用率は、導入後1週間で全体の20%くらいになっており、当社としてはその決済方法を推しています。
それで、お客様が購入時に決済方法を選ぶタイミングで、どれくらいの時間をかけて決断をしているのか興味があり、滞在時間を見ていました。その結果、かなり短い時間でPaidyを選んでいるのがわかったので、「うちのお客様にはPaidyで支払う習慣がかなり浸透している」と仮説を作り、サイト内での告知を強める取り組みを決めました。
直感的な気付きこそが、スピーディーにUX改善を行うカギ
三宅: ユーザグラムでは、お客様一人ひとりの行動を追って発見を得るほかに、発見した行動パターンのお客様が何人いるかを定量的に集計できます。こちらの機能は試されましたか?
高橋:はい、例えば、施策の効果検証で使っています。毎週水曜日に更新しているメイクレッスン動画のページがあるのですが、毎週木曜日に、前日更新した動画をどれくらいの方が観て、商品購入につながったかをチェックしています。
すると、商品購入者全体の約42%が、その動画ページを通ってから購入していることがわかりました。特定のページを購入者の40%が見るということはなかなかないと思うので、このメイクレッスン動画施策はうまく機能しているという仮説を持つに至りました。
三宅:お話を聞いていると、高橋さんが得られた発見を施策に移すスピードがとにかく速いことに驚かされます。
高橋:デジタル行動観察って、直感的な気づきが一瞬で得られるじゃないですか。限られたリソースで成果を上げるには、スピードが命だと考えているので、気づきをすぐ施策につなげることを大事にしています。
三宅:サイトやマーケティング施策を改善するにあたって、社内説得で苦労されたことはありませんでしたか。
高橋:代表の方針であるブランディング重視の考え方と、EC担当として成果を上げなくてはいけないことの板挟みがあったのですが、ユーザグラムの画面を実際に見せることで、代表とのコミュニケーションがとりやすくなりましたね。
たとえば、自然検索にいったん戻ってから入り直す人がたくさんいるのを見れば、直感的に「お客様を迷わせてしまうサイトになっていてマズい」とわかるので、いちいち詳細な資料を作ったりせずに改善施策にOKをもらえるようになりました。
ユーザー一人ひとりの行動を捉える!デジタル行動観察ツール「ユーザグラム」はこちら
ウェブサイトに訪れる一人ひとりのユーザー行動を追うことで、ユーザーが離脱していたり、つまづいているポイントを把握できるので、成果が上がるUX改善の施策につながります。
お客様の行動を見せれば、社内コンセンサスが超速で実現
三宅:導入前のトライアルでは、ユーザグラムを検討する理由として「効率的に業務を行えそうだから」というお話をしていただきました。
高橋:そうですね。Google Analyticsのデータだけを見て判断するとなると、とにかく時間がかかるわけです。数字の羅列を分析して仮説を立てて施策を計画して検証方法を考えて、その一連の経緯を資料にまとめあげ、社内にプレゼンして理解を得る……正直大変です。
どんなに一生懸命作った資料でも、数字だけだと「こういう考えもあるんじゃないの?」というツッコミの入る可能性があります。数字の解釈は複数通りありうるので、ツッコまれるのは仕方ないんですけれど。とにかく、こうした一連の社内プロセスが費用対効果に見合うのか、疑問なところもあります。
ところが、ユーザグラムの画面で実際のお客様の行動をちょっと見せるだけで、一瞬にして仮説を共有できます。社内へ「お客様が実際にこう動いているんだから、こうしましょうよ」とすぐ説得できるわけです。このスピード感が大事じゃないでしょうか。
三宅:お客様のことを知るという意味では、アンケートなどは取られないのでしょうか。
高橋:お客様アンケートは取り組んではいますが、回答率を上げるためにポイントなどのインセンティブをつけるのでバイアスがかかって、どうしても好意的な意見ばかりになってしまうんですね。
そこで、アンケートにお答えいただいたお客様のIDを使って、ユーザグラムで実際の行動を見てみると、見事にホンネと建前が違うことがわかります。アンケートでは「この商品好きなんです」と書いてくださっているのに、実際の行動はそうでもなかったりすることが、ざらにあるんです。アンケートの裏にあるインサイトを掘り下げるためにも使えます。
デジタル行動観察によって効果検証もスピード&精度が向上
三宅:お客様が無意識に行動したデータなので、本当のありのままの姿を見ることができますからね。その発見から仮説を立てて施策を打った後、効果検証はどのようにされているのでしょうか。
高橋:効果検証についても、まずユーザグラムでユーザーの行動を見ます。次に、SNSで商品名などを検索して、トレンドとしてどういったことを発信されているのかチェックします。その上で、効果測定ツールや商品の実売データなどで定量的な数値をチェックし、改めてユーザグラムに立ち返ってお客様の具体的な動きを再度検証しています。直感的な定性データと、客観的な定量データ(数字)を交互に見ているわけです。
三宅:高橋さんは、たくさんの施策を次々に繰り出しているので、効果検証も大変ではないですか。
高橋:意外かもしれませんが、ユーザグラムは良い意味でざっくり本質がつかめて、判断できるので、楽なんです。逆に、もし普通のツールを使って数字をもとに施策を行っていたら、めちゃくちゃ大変だったでしょうね。数字を追うとなると、サンプルデータを取るのに時間がかかり、さらに改善前後のデータを集めてどうだったのか考えなければなりませんが、それをやらなくていいのは大きいです。
「お客様の動きが変わったな」という気づきや実感をベースに改善していけるのが魅力だと思っています。とにかく、数字にこだわることで時間がかかって課題への対処が遅れ、悪いとわかっていることを続けてしまうほうがまずいと考えています。課題に気づいたらスピーディーに変えて、すぐさま検証するのが重要だと思っています。
なにしろお客様もスピーディーに様々なサイトを見に行くようになっていますから。ユーザーの変化にあわせて、昔と今とでは効果検証のやり方も変えるべきなのではと感じています。弊社としては、ブランドとしての世界観を崩さないことだけ気をつけておけば、どう施策を打っても大幅な事故にはならないと考えて、積極的に改善に取り組んでいます。
「担当としての意識」を捨てて「お客様目線」にリセットする
三宅:最後に、成果につながる施策を思いつくコツを教えてください。
高橋:「担当としての意識」を持たないようにすることです。「売上を上げるためにこうしたい」という意識を持ってしまうと、お客様を上からコントロールするモードになってしまい上手くいかないように感じます。
デジタル行動観察は、自分のマインドをお客様目線にリセットし直すきっかけになります。「このページで時間をかけて見ている人って、どんな気持ちなんだろう」と想像して、「商品が欲しいけど、参考情報が少なすぎて迷っているのかもしれない」「使用イメージがわかなくて二の足を踏んでいるのかもしれない」なんてイメージをふくらませていきます。自分がお客様の気持ちになりきって、どうすればこのサイトで買い物しやすくなるのかを考えていくのです。
三宅:デジタル行動観察を通じて、お客様をコントロールする意識をセーブしていくというのはおもしろいですね。今日お話をうかがうなかで、私たちも気づいていない可能性に気づかされました。ありがとうございました。
ユーザー一人ひとりの行動を捉える!デジタル行動観察ツール「ユーザグラム」はこちら
ウェブサイトに訪れる一人ひとりのユーザー行動を追うことで、ユーザーが離脱していたり、つまづいているポイントを把握できるので、成果が上がるUX改善の施策につながります。