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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

なぜ今DMが深く刺さる?LIFULLとアジャイルメディア・ネットワークが挑むデジタル×アナログ施策

 日本郵便が進める、DMとメールを組み合わせた『デジタル×アナログ』実証実験プロジェクト参加企業が決定した。不動産サイト運営のLIFULLと、企業のSNS活用やマーケティング支援を行うアジャイルメディア・ネットワークだ。両社はなぜ、この実証実験に参加したのか。両社が感じている課題、DMへの期待をひもとく中で、アナログだからこそ実現できる可能性やオープンイノベーションの萌芽が見えてきた。

デジタルマーケターは、DMに何を期待しているのか

鈴木:前回、ダイレクトメール(以下、DM)とメールを組み合わせたマーケティング実証実験参加募集を呼びかけたところ、たくさんの応募をいただきました。

 今回は実験に参加いただくことになった、不動産情報サイト「LIFULL HOME'S」(以下、HOME'S)を展開しているLIFULLさんと、ブログやSNSを活用して企業のカンバセーショナル・マーケティングを支援しているアジャイルメディア・ネットワークさんの2社に来ていただきました。

 左から、株式会社LIFULL Chief Data Officer LIFULL HOME’S事業本部 グループデータ戦略部 部長 野口真史氏、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 代表取締役社長 上田怜史氏、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 プラットフォーム部 部長 チーフテクニカルディレクター 五十嵐靖也氏、日本郵便株式会社 担当部長 鈴木睦夫氏
左から、株式会社LIFULL Chief Data Officer LIFULL HOME’S事業本部 グループデータ戦略部 部長 野口真史氏
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 代表取締役社長 CEO 上田怜史氏
同社 プラットフォーム部 部長 チーフテクニカルディレクター 五十嵐靖也氏
日本郵便株式会社 担当部長 鈴木睦夫氏

 実証実験については、これからシナリオを考えて施策に落とし込むところですが、今回お話をうかがうのは、デジタルマーケティングを推進する中でそれぞれが感じている課題を共有し、その課題とコインの裏表の関係にある「DMの可能性」についてアイデアを語り合いたいと考えたからです。

 セミナーやメディアで先進事例が紹介されるとき、結果しか表に出ないことがしばしばです。でも本当は、試行錯誤するプロセスの中で見えてきた課題やつまずきの中に、どの企業にも共通するポイントがあると思っています。そこであえて、動き出す前の段階で、両社の思いや考えを聞いて、マーケターの方々に共有したいと考えました。

野口:私どもLIFULLは「HOME'S」を運営する中で集まったオーディエンスデータや物件データを最大限活用したいという意図のもと、今年4月にグループデータ戦略部を立ち上げました。

 もともと4年前よりオーディエンスデータを活かしたDMP事業を始めていたのですが、それをさらに推し進め、不動産会社様の接客サービス向上につながるソリューション提供や、住まい・暮らしを起点にした新たな情報サービスとして展開できないかと企画を進めています。

 さらに、会社として保有するデータ資産の更なる活用の方向性として、従来「HOME’S」においてはコンテンツとして扱われていた物件情報をDMの送付先情報として活用できないか、検討を始めたところでした。

 また、ここ1、2年でHOME'Sが掲げている主力戦略に「オムニチャネル戦略」があります。HOME'Sの集客メインチャネルはWebサイトですが、不動産の場合、どうしてもリアルな接客が必ず入って来ますし、最後のコンバージョンはアナログになるので、デジタルで完結することはありません。

 プロセスの中で、必ずアナログな要素が入ってくるため、デジタルでは追いきれない。そこで始めたのが、リアル店舗の「LIFULL HOME’S住まいの窓口(以下、住まいの窓口)」です。

 ところが、一度Webに来たユーザーや、Webから遠ざかってしまったユーザーを「住まいの窓口」や不動産会社に誘導したり、不動産会社に来店した後のユーザーにまた別の選択肢を提案することを考えると、デジタルだけではコミュニケーションが途切れてしまうことがあります。そこを解決したいと常々考えており、突破口としてDMに期待しています。

上田:当社アジャイルメディア・ネットワークは創業11年目の会社です。4年前から、自分の好きな企業やブランドについて自発的に情報を発信してくれ、時には他のユーザーへのサポートや、ブランドの擁護までをしてくれる熱心なファン層を「アンバサダー」として組織し、企業のエンゲージメントを高めていく「アンバサダープログラム」というマーケティング支援を展開しています。

 アンバサダープログラムでは、企業が持っているCRMデータやSNSのフォロワーなどを分析し、その中から、企業のファンとしてまわりの人に口コミやメッセージを伝えるアンバサダーを発掘し、ファンの基盤として形成していきます。

 具体的な取り組みは、ファンイベントの開催や、商品サンプルの送付などですね。デジタルの施策も多く実施していますが、直接アンバサダーと会ったり、体験の機会を提供するリアルの施策も欠かせません。

 そうしたリアルな場を経験してつくづく感じるのですが、リアルな場の熱量はすごい。これだけデジタル空間に情報があふれている中、リアルなコミュニケーションの価値は上がる一方であり、共感できるリアルの体験にならお金や時間をもっと投資したいと考える人は増えているんです。

 もともと当社は、アンバサダーの認定に当たっては、名刺や賞状などのプリントメディアを配っていることもあり、印刷メディアを活用していたんです。おもしろいことに、こういうツールも、アナログだからこそ人間の承認欲求にうったえるんですね。これを一歩進め、今後アンバサダープログラムの中にDMを取り入れたら、行動喚起につながる施策になると考えました。

デジタルはアナログの「次の手段」ではない

鈴木:僕自身、マーケティング畑で30年間仕事をしてきましたが、いまはデジタルをアナログにとってかわる、「次の手段」と考えているマーケターがいるでしょう。「アナログは古い、すたれている」という考えで、デジタル「しか」知らない人も増えています。

 でも人間自体がそもそもデジタルではないし、デジタルだけに閉じているとコミュニケーションが行き詰まり、相手と深い関係性を築くためには足りない部分も出てくるんですよ。野口さん、上田さんは、自社の事業を通じて、そのことを実感されているわけですね。

上田:そうですね、アンバサダーたちの感情を揺り動かすために、リアルなコミュニケーション、価値体験を作る必要を感じています。

野口:不動産も人間の生活に関わるサービスなので、すべてをデジタルで完結することは難しいですね。

鈴木:いまはその気になれば、アナログもデジタルも活用し、マーケティングプロセス全体を活性化できる時代です。なのにデジタルとアナログが分断され、知見もバラバラになっている状態なんですよね。

 デジタルとアナログには、それぞれメリットもデメリットもあります。たとえばデジタルは、何かが起こる「きざし」であるモーメントをつかむ力が強く、拡散力があります。コストも安く、データをトラッキングしやすい。一方で、モーメントが強いあまり、サステナブルではありません。

 これに対してアナログは、行動を喚起する効果が強いものの、スピードとコストの面でデジタルより効率が悪くなります。

 長所も短所もある両者を工夫して組み合わせることで、ターゲティング精度もROIも上げて持続的な効果を生み出すことができる。そういう知見を、実証実験を通じて蓄積していきたいんです。

デジタルで予兆をつかみ、DMでリーチさせる

鈴木:DM×メールの施策シナリオはこれからだと思いますが、現時点でDMや実証実験に寄せる期待やアイデアを教えてください。

野口:課題としては3つあります。第一に、先ほども説明したように、デジタルだけではプロセスの分断が起きること。特に最終コンバージョンに関しては、ユーザーが本当に不動産会社に来店したのか、契約したのかまでは、デジタルでは追えません。

 第二に、不動産サービスの利用者の中には、Webを使わない方も多くいらっしゃるので、そこにリーチできないこと。

 第三に、不動産の売却や住み替えなどわかりやすく予兆や、ターゲット特性をとらえたマーケティング手段がないこと。不動産業界ではまだまだ広告媒体としてチラシに多くの予算が割かれています。ですが、チラシは全地域に配るのでどうしても効率が下がります。

 そこを「このユーザーは◯◯年前に住宅を購入したから、そろそろ住み替えを検討しているかもしれない」とか、「この地域のこのマンションの◯◯◯号室は家賃相場が△△だから◇◇の分譲広告のターゲットだ」などとデジタルデータを活用してDMを送付し、オンラインに呼び込み、トラッキングするという流れを作りたいと思っています。

上田:当社の場合、アンバサダープログラムとDMの相性がいいと考えています。DMは実際にモノを送ることができますし、当社もアンバサダープログラムの中でサンプル品を配ることがあります。サンプルを配った後、実際にどう拡散したのかをより確実に追っていきたいと考えており、今回のDM×メールの実証実験は、そうした可能性を探る機会になると思っています。

 ただその前に、DMの効果としてどういう態度変容が起こるのか、社内で知見をためておかなくてはなりません。まずはこのアンバサダープログラムを企業に認知していただき、関心を持っていただくためにDM×メール施策を活用する考えです。そうして知見をためてから、アンバサダーへのDM送信を進めていきたいと考えています。

五十嵐:アンバサダープログラムについては、現在Webを通じてお問い合わせをいただいたり、営業訪問から案件化したりすることが多いのですが、このアクションだけでは案件化しにくくなっているという課題があります。

 そこでDMを活用し、「当社のアンバサダープログラムを推奨してくださるアンバサダー」を発掘・ナーチャリングしていきたいと考えています。アンバサダープログラムのことを、企業アンバサダーの方に推奨してもらうようにしていくというイメージです。

 とはいえ、すべてのお客様に無限にDMを送付し続けるのはコスト上不可能なので、すでに導入しているMarketoと連動させ、データ分析やA/Bテストを組み合わせながら精度を高める工夫をしていきます。

 最終的には、当社が提供している、アンバサダープログラムを実施するためのマーケティングプラットフォームの中でDMソリューションを構築して、企業様へと提供していきたいと考えています。

鈴木:時間も限られているので、テストシナリオについては、優先順位の高いものから実施していくことになるでしょうね。おすすめなのは、これまでと同じようにメールでしかコミュニケーションを取らない層をコントロール層として設定しておくことで、DM効果の比較がしやすくなります。DMのクリエイティブを分けるかどうかは、シナリオ次第でしょうね。

HOME'Sのデータで察知した「入居のタイミング」にDMを送る

鈴木:野口さんの施策では、どのような層をターゲットに想定していますか?

野口:基本的に、直近で最低一度はHOME'Sを使った方で、かつ住所入力をしていただいている方が対象になると考えています。実証実験における最終コンバージョンは、「住まいの窓口」や不動産会社に足を運んでいただく、あるいは住宅の購入・契約という想定です。セグメントの切り分けについても検討中ですが、ライフステージ要素を採り入れたいですね。

 さらに可能であれば、不動産領域にとどまらないソリューションを作っていきたいです。HOME’Sに登録されていたのに表示されなくなった物件では、すでに分譲が成約して新生活が開始しているとみなして、家具や家電を扱うサービスへと誘導する施策が考えられます。

鈴木:おもしろいですね。住所に関するデータベースをお持ちなので、入居のタイミングをみはからって、そのタイミングでDMを送るというのはデジタルとアナログの見事な合わせ技です。

 ちなみに、DMで家電量販店などへ来店を促す場合、本人を特定できるキーIDを入れておき、ハガキと引き換えのプレゼントキャンペーンを行うなどして、DMを見て来店したということをトラッキングできる仕組みを設ければ、より精度の高い効果検証ができるはずです。

“デジタリアン”とDMが化学反応して生じる、新ビジネスのヒント

鈴木:業種は異なりますが、今回こうして実証実験に参加する会社同士の会話の中で、それぞれ共感する部分はありましたか?

上田:LIFULLさんのお話を聞いてDMから広がるビジネスの可能性を感じました。LIFULLさんがお持ちのデータには、住み替えや新居といったライフイベントの情報が入っていますよね。これをアンバサダープログラムと組み合わせられないかと感じました。

 結婚、資格といったライフイベントは熱心な情報収集や発信につながりますが、たとえば結婚式を挙げた後は情報収集や発信がぱったり止んでしまうのが課題であり、家探しについても同様の傾向があると考えています。

 しかし、家探しや引っ越しを考える中で、先人が経験したのと同じ課題を抱えている人はいるはず。そこで、住み替えを経験してきた人をアンバサダーとして、これから同じ経験をしようとしている人に向けて情報発信してもらうことで、双方のコミュニケーションが高まり、LIFULLという会社へのエンゲージメントが高まるのではないでしょうか。

 具体的には、転居などのきざしをデジタルでキャッチして、「住まい探しについての経験を発信してください」という内容のDMを発送するとよいかもしれません。

野口:実は私も似たようなことを考えていました(笑) 私のミッションの1つに「ユーザーデータを活用してLTVを高めていく」というものがあります。

 特定の期間に物件検索を熱心にしていて、その後HOME’Sを訪問しなくなった方を「引っ越し済み」とみなして家具や家電をレコメンドするというのもその一環なのですが、アンバサダーとして住み替えについての情報を発信していただくのも魅力的ですね。

 特に、住み替えのようなライフイベントは、一生のうちに何度も経験するものではないので、自分で知識を高めていくというのは難しいだけに、アンバサダーの情報は貴重なはずです。

上田:住居情報は、ライフステージや家族構成によって見る視点がバラバラだと思うので、そこをセグメントして情報を出し分けるといいかもしれません。情報発信はデジタルでもできますが、デジタルだけだと顕在層にしかリーチできないので、やはりそこで潜在層へリーチするためにDMが有効なんですよね。

野口:今回の実証実験参加に当たり、鈴木さんとお話しした時に、全日本DM大賞の事例を紹介していただいたのですが、その際にDMならではの表現力や工夫にびっくりしたんです。当社のマーケティング施策はこれまでデジタルに寄っていたので、表現力といっても、広告枠の中で動画にするか静止画にするかということが中心だったんですよ。そういう意味でも、DMの訴求力や情報発信力には期待しています。

鈴木:そこに、人を動かすメディアとしてのDMの可能性があるのでしょうね。DM、言い換えれば「お手紙」には、デジタルではかなわない、ハイタッチな、お客様との親密な関係へとつながるコミュニケーションを形にする力があります。

 また、デジタルコミュニケーションに反応する「ホットリード」と、反応がない「コールドリード」を分析すると、実はまったく違いがないということもあるんですよ。違いといえば、デジタル上で反応があるかないかということだけ。リーチできていないから「コールド」だと思いこんでいるだけで、アナログでリーチすると「ホット」だったとわかることは少なくない。実はこれ、BtoBでもBtoCでも同じです。

 そこを埋める手段として、DMは大きな可能性を秘めています。ただし、かつてのように「数打ちゃ当たる」ではなく、デジタルと組み合わせて、適切なタイミングで必要な情報を正しい手段で送ることで、ユーザーの行動喚起につながっていく。

 だから、チャネルだけではなく、広告や情報もオムニ化していかないといけないんです。今回の実証実験を通じ、アナログの可能性や、デジタルと組み合わせることで実現できる効果を、デジタル重視の“デジタリアン”の方に訴求できたらいいなと考えています。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/18 16:23 https://markezine.jp/article/detail/27220