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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Autumn

定期誌『MarkeZine』特集

新しい大人市場をつかむ秘訣は“若者が憧れる”要素

旅行、趣味、食 メリハリつけて賢く消費

 その一方で、お金をかけるところにはかける。図表4の調査によると、彼らが今後お金をかけたいコト・モノは上位から「旅行」「趣味」「普段の食生活」となっています。

図表4
図表4:お金をかけたいことは、旅行・趣味・食

 彼らは前述のように自分たちをお金も時間もある“金時持ち”だとも認識しています(図表5)。

図表5
図表5:お金も時間もある「金時持ち」の自己認識

 最近、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」に人気が殺到し、「富裕層が動いている」といわれましたが、富裕層はあまり人の行かないリゾートに行くのであって殺到はしません。ここに集まったのは、平均年齢65歳と発表され、富裕層よりもずっとパイが大きい、リタイア層を中心に時間のできた小金持ち夫婦です。今年は、JR東日本の「四季島」、JR西日本の「瑞風」も大人気です。

 女性は友達同士の旅行もとても活発で、京都と金沢は以前から50〜60代女性の鉄板旅行先です。インバウンドの旅行者もある程度はいますが、新幹線に乗って周りが外国人ばかりという状態にはなりません。北陸新幹線の活性化は、彼女たちが支えており、国内旅行は非常に好調です。

 趣味も侮れません。長年の憧れだったハーレーやマーティンが“今なら買える”というモチベーションが大きいので、この世代は人口の多さだけでなく高額消費が見込める点でも魅力的です。ちなみに趣味の世界は踏み入れると次々と疑問が生まれます。そこに合致したのが、ディー・エヌ・エーが“大人世代のSNS”と謳って運営する「趣味人(しゅみーと)俱楽部」です。前述の「情報縁」の代表例です。中高年向けポータルサイトは軒並み壁にぶつかったといわれましたが、SNSに特化したこのサービスは現在会員32万人で好調です。

 一方でお金だけではなく、ポイントは「行動」しているということです。彼らが定年退職し始めた2010年ごろから、60代の鉄道による移動量が増えています(※2)。これは、奥さんに「どこか出かけないの?」とちくちく言われるのも手伝って、あまりお金をかけずに美術館や博物館、神田神保町の古本屋めぐりなどにどんどん出かける「街歩き」が増えたからです。事実、「ブラタモリ」「じゅん散歩」など散歩番組が大流行りです。また、お金の面では男性は退職金を投資に回してうまく運用している人も多いので、アベノミクスを底辺で支えたのは彼ら団塊の個人投資家たちということも言えます。

 普段の食生活にも、自宅で普通に黒毛和牛を楽しむなど、“ちょっといいもの”を選んでいます。東急の渋谷ヒカリエは、実際はもっと若い世代を狙っていたのでしょうが、ランチで1,000円を超える店がほとんどで、東急沿線の50〜60代の女性で大にぎわいです。

若者からの憧れがヒットを創る

 ここまで紹介したような特徴を捉えた好事例を2つほど紹介しましょう。ひとつは、代官山 蔦屋書店です。20〜30代中心に思えるかもしれませんが、元々はカルチュア・コンビニエンス・クラブ創業者で現社長の増田宗昭さんが、50歳以上の大人をターゲットに企画したと言われています。彼ら向けに音楽や旅行などライフスタイル別の売り場を作り、コンシェルジュを置き、スタバのコーヒーで座って本が読めるようにしたら、若者世代にもどっと受けています。

 もうひとつは、昨年リニューアルしたショールーム、パナソニックセンター大阪です。子どもが巣立った世帯にはリフォームや建て替え需要がありますが、よくあるアプローチは「終の住処」や「老後の住まい」と謳い、決してワクワクするものではなかった。そこで同社は「Re-Life Story 新しい大人の暮らしを描いてみませんか」と問いかけ、様々な切り口で豊かな大人の暮らしを提案しています。

 前述のななつ星も、好例です。これらには明確な共通点があって、それは「若者も憧れる」という点です。今は無理でも、いつか行ってみたい、住んでみたい。蔦屋は実際に若者であふれているわけで、このパターンにあてはまるマーケティングは大体ヒットしています。今の団塊世代へはやはりテレビのリーチが強く、デジタル中心とはいきませんが、それ以降の世代には、デジタルを中心に「情報縁」をうまく構築してブームを起こすことも十分できそうです。

 ヨーロッパには昔から大人中心の文化がありますが、長く若者やファミリー層が消費の主役だった日本に今できつつあるのは、ヨーロッパのそれとは違うデジタル時代の新しい大人文化です。ハーレーが現在の50・60代の気持ちを捉えているように、20年後にそうなれるような憧れの大人のブランドを今から仕込むのは、成功へのひとつの道です。持続的な市場を形成しながら、単なる消費に留まらない、「新しい大人文化」が生まれることが期待されているのです。

※2『第5回東京都市圏パーソントリップ調査(交通実態調査)の集計結果について』(国交省および東京都市圏交通計画協議会)

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/25 17:47 https://markezine.jp/article/detail/27460

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