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第106号(2024年10月号)
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MarkeZine Day 2017 Kansai(AD)

富士フイルム×日本郵便×恩藏直人研究室の実証実験が明かしたBeyond digitalの意味

 日本郵便・富士フイルム・早稲田大学が産学共同で行う、MA×DM×メールの実証実験。2018年11月22日に行われたMarkeZine Day 2017 Kansaiでは、日本郵便の鈴木睦夫氏と富士フイルムの一色昭典氏が登壇し、実証実験を振り返るパネルディスカッションを行った。あわせてモデレーターの博報堂プロダクツ大木真吾氏がB to Bの事例としてリクルートジョブズの取り組みを紹介した。

デジタルだけではリーチできない層に、アナログの手法を取り込む

富士フイルム 一色 昭典氏(写真左)日本郵便 鈴木 睦夫氏(中央)博報堂プロダクツ 大木 真吾氏(写真右)
富士フイルム 一色 昭典氏(写真左)日本郵便 鈴木 睦夫氏(中央)博報堂プロダクツ 大木 真吾氏(写真右)

大木:モデレーターを務めます、博報堂プロダクツの大木真吾です。本日は『デジタルのその先へ。課題解決のカギはデジタルとアナログの組み合わせにあり。』と題しまして、日本郵便と富士フイルム、そして早稲田大学が産学共同で行っているDMを活用したマーケティングの実証実験についてお話をうかがいます。

 まず本日のテーマとなる、顕在化してきたデジタルマーケティングの課題について考えたいと思います。

 現在、データにもとづいたデジタルマーケティングが主流となりつつありますが、生活者の情報取得や購買行動は、デジタルとアナログの間を自在に行き来しています。にもかかわらず、なぜかデジタルマーケティングの範囲内ですべてを解決しようとしがちです。まずここに、課題があると思われます。

講演資料より抜粋。以下同

 また、デジタルだけではリーチの限界があります。そして海外から広告ブロッカーの話題も聞くようになりました。デジタル領域だけでは、コミュニケーションの幅が狭くなってしまうのではないでしょうか。

鈴木:日本郵便の鈴木です。私はP&Gへ入社し、以降30年間、IMJやコカ・コーラとマーケティングのキャリアを重ねてきました。おっしゃるとおり、デジタルだけではカバーできない領域があります。そこに対して、アナログの手法を組み合わせる必要があるでしょう。

 「デジタル・アナログ領域のマーケティング施策実態調査」(2016年・日経BPコンサルティング)によると、アナログとデジタルの統合マーケティングを実践する企業はまだ少数です。本日はデジタルとアナログを組み合わせることの有用性をお伝えしたいと思います。

サービス会員の92%にリーチできていなかった富士フイルム

一色:富士フイルムの一色です。さっそくですが、実証実験のレポートをご紹介いたします。今回の実験は、弊社の公式ネットプリントショップの会員さまを対象としました。

 現会員の半分がオプトインメールを受け取っています。しかし平均開封率から計算しますと、会員全体の8%にしかリーチができていません。

 また、メールを受け取っていない会員に対してもコミュニケーションが取れていなかったというのが現状です。そこでDMを活用するとどうなるのか、を実験しています。

大木:私から実証実験の概要を説明します。実験は2回行われ、第1回は普段Eメールを受け取っていない会員の方が対象です。

 また本実験は富士フイルムの関連企業である富士ゼロックスと組んでいます。MAを活用しバリアブル印刷という個別の印刷ができる手法を用いたのが特徴です。ユーザーごとにユニークなクーポン番号とLPのURLを印刷したDMが送付されています。

DMを受け取ると嬉しく感じ、興味が持続するという結果に

一色:結果として、DM送付者のサイトアクセス率が45%でした。通常Eメール送付時のアクセス率が0.7%ですので60倍以上の効果がありました。

 また実験の際にクラスタのLTVを調査したところ、リピート率の高い優良顧客が多かったということもわかっています。オンライン施策が届かない層に、ロイヤリティの高いお客様がいらっしゃったのです。

大木:続いて2回目の実証実験です。今度の母集団は、過去1年間プリントサービスをご利用になった方かつ、オプトインメール対象者から無作為に15,000人が選ばれています。そこからDMとEメールを送付する順番を変えた3つのクラスタに分けています。

 DM・Eメールの順に送付するクラスタ1、Eメール・DMの順がクラスタ2。そしてDMを送らずにEメールを2回送る、クラスタ3となっています。

 なおインセンティブは、フォトブック1冊無料クーポンとフォトブック全商品半額クーポンです。また、DMを受け取った際の態度や気持ちの変容についてアンケートも行っていますね。

一色:このアンケートは、早稲田大学の恩藏直人先生にご協力いただいています。今回のDMを手に受け取ったときの感触や紙の匂いなどが、人の五感へどう影響するのかアカデミックな面からも分析しました。

大木:結果はいかがでしたか。

一色:DM・Eメールの順に送付したクラスタ1の注文率が、1番高い結果となりました。Eメールのみのクラスタの4.7倍です。

 クラスタごとのサイトアクセス数をグラフ化してみますと、DMによる反応は持続性があることがわかります。またリマインドの役割にもなった2回目の送付以降も反応が続いていますし、クーポン利用の締め切り日にもう一度山場が生まれます。興味が持続しているんです。

大木:DMは物として存在しますので、興味があれば目の届く範囲に置いて見返すというイメージが浮かびますね。

一色:続いて、学術的考察の一部をご紹介します。クーポン配布対象者にEメールでアンケートを送り、調査しました。結果DMを受け取っていると、クーポン使用率も熟読率も高いというデータが出ています。またおもしろいのが、紙へ良い印象をもっているということです。

 富士フイルムでは、写真をアルバムとして形に残すことで人同士の気持ちや関係性をつなげることができるのかという研究を進めています。紙と電子データが与える影響の違いは、今後も興味深い研究対象です。

DM×メルマガでアクセス数3.6倍を実現したリクルートジョブズ

大木:ありがとうございました。続いて、B to Bのサービスで同様の実験を行ったリクルートジョブズの事例をご紹介します。

 リクルートジョブズのクライアントは、求人広告を出稿される事業会社です。その中にも、やはりオンラインで接点が持てないというクライアントがいました。そのような方へ、DMを使ってアプローチをしてみるという実証実験です。

 クラスタは、メールのみ、DMとメール(A)、DMのみ(B)と3つに分け、結果としてクラスタAに最も良い反応が出ています。オンラインのみより、DMを組み合わせたほうがサイト訪問に3.6倍の成果が出ています。

 またDMで、メルマガを購読されていないお客様に再びオンラインへリアクティブできたことも新たな気づきとなっています。引き続き、DMの実証実験は続けていらっしゃるそうです。

デジタルネイティブが、アナログなコミュニケーションに注目

大木:では鈴木さまより、あらためてDMの特徴についてうかがいます。

鈴木:はじめに、日本DM協会が2016年に行ったDM利用実態調査から、4つの特徴的なデータをご紹介しましょう。開封率が81%、受け取り意向率が77%、行動換気率が24%、保存率が52%とそれぞれポジティブな数値となっています。

 また意外なのが、20代男女のデータ。さらに数値は高くなっているんです。

一色:DMの受け取りが少ない、いわゆるデジタルネイティブ世代ですね。

鈴木:フリーアンサーをテキストマイニングしますと、大人扱い・おもてなしといったワードが見られます。デジタルコミュニケーションに慣れた世代へ、アナログのアプローチをすることは一つの手段になるのではないでしょうか。

一色:実は弊社のインスタントカメラ「チェキ」や30周年を迎えた「写ルンです」を、デジタルネイティブ世代が使っているんですよね。新しいツール、新しい出会いのように彼らは受け止めているのかもしれません。

鈴木:今、マーケターが最も注目している話題は「ターゲティング」と「エンゲージ」です。リアルな体験というのは大きな解になりますね。

 DMに限らず、ユーザーとのコミュニケーションは、「ターゲット・タイミング・クリエイティブ・オファー」の4つの要素から成り立ちます。テクノロジーが発達した今は、どんな価値を伝えるのか? という部分がさらに大切になってくると思います。

大木:テクノロジーのお話がでましたが、DMのデメリットであったスピードは印刷技術の発達でだいぶカバーできるようになったとうかがいました。

鈴木:そうですね。またDMはコストがかかるというイメージがあります。確かにメール1通あたりと比べると高いですが、MAでターゲティングしたDMであれば、全体的なROIは良くなっていますね。

 またクーポンやキャンペーンURLをユニークなものにすることで、誰がいつアクセスしたかがわかります。MAやデータを活用すれば、トラッキングも工夫できるようになっているんです。

ユーザーが中心に立ち、自由に情報と接するオムニメディア

大木:最後にまとめとなりますが、今回の実証実験を実際に行ってみる場合のポイントがありましたら、教えてください。

鈴木:ポイントは、コミュニケーションのシナリオです。自社ユーザーの課題から戦略の仮説を作ることもできますし、メールマーケで効果の出ているシナリオがあれば、それを活用することも可能です。また、施策全体のROIを見て進めることが大切です。

 中には、予算が取れないというお悩みもあると思います。その時は、テストとしてシンプルな実験を行うのです。DMの効果が測れたら、次のステップとして「ターゲット・タイミング・クリエイティブ・オファー」の要素をひとつずつ検証していくという方法がおすすめです。

一色:事業会社として実験に携わった立場としましては、やってみないとわからないことがたくさんありますとお伝えしたいです。新しいことでも、今は小さい規模でスタートできます。PDCAを回しそこから得られたデータを活用いただければ、皆様の事業もうまく進めるのではないかと思います。

鈴木:本日はDMを中心にお話しましたが、私はアナログとデジタルの組み合わせの先には、オムニメディアがあると考えています。

 オムニチャネルとおなじようにユーザーが中心に立ち、情報を欲しいタイミング・欲しいクリエイティブでどこからでも得られる状態が理想。それが実現できれば、生活者と企業の新しい関係が築けるのではないでしょうか。

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この記事の著者

マチコマキ(マチコマキ)

広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2017/12/19 10:00 https://markezine.jp/article/detail/27600