データを活用するために組織や業務を変える
有園:顧客インサイトの深掘り、まさにそうですね。
加藤:デジタルの本質の一つは、そこにあると思います。ただ、これを味方につけられるか否かの要因がいくつかあって、大きいのはやはり経営のコミットメントです。ライオンさんにしても、ここまで大きな変革は経営マターであるはずです。

有園:そうでしょうね。だからこそ、これまでオウンドメディアやDMPがビジネス視点だとスタンドアローンな存在だったかもしれなくても、これから実は真価を発揮する可能性がある。
加藤:他のトラディショナル企業でも、先進的なところは経営の意志で、デジタルを本格的にビジネスに活用していこうとしています。
デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションは少し言葉が先行している部分もありますが、組織変革から業務オペレーション変革、各所に適した人材配置と育成も含めて、やはり経営のコミットメントがないと難しいのだろうと思いますね。たとえば人材についても、いわゆる社内のマス広告出身の人材を、デジタル部門のリーダーに配置するケースも出てきています。
有園:それを聞いてすぐ思い浮かぶのは、花王でマス広告のクリエイターを経てデジタルマーケティングセンター長に就任された鈴木愛子さんですね。これはまさしく、企業としてデジタルをマーケティングの中心に据えていく、デジタルシフトの取り組みの一環なのだと感じました。
事業会社とエージェンシー間の人材流動
加藤:同感です。人材の部分でデジタルシフトを進めるには、今のような社内のマス広告出身者を据えるか、外部から経験者を招くかの2通りがありますよね。
有園:そうですね。ただし外部から迎える場合、そもそも文化が異なる人材という点と、加えて現状では亜流扱いになっているデジタル領域という点、二重の難点がある。ここは、社風や文化の話にも関係するので一筋縄ではいきませんが、何か乗り越える策ってあると思いますか?
加藤:文化は一朝一夕に変えることはできません。ですが、組織や体制の部分で新しく入ってきた人材が活躍できる環境を用意することが、解決策の一つなんじゃないかなと思います。
というのは、エージェンシーから事業会社への転職、特にデジタル領域の手腕を見込まれての移籍はときどき聞きますが、蓋を開けてみると事業会社内のデジタルに対する理解度が低かったり、組織や社風の問題で思いきり腕を振るえなかったりして、フィットしないケースもあるんですよね。こうなると入った側も受け入れた側も、お互い不幸で結果的にデジタルシフトは進みません。
有園:なるほど。人材の流動も、本当はもっと起こるといいんですよね。特に、事業会社からエージェンシーが増えると、事業会社の課題もよくわかっているし、業界全体としてデジタルシフトを推進する一助になるんじゃないかなと。
加藤:同感ですね。