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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

伝統的BtoB企業が挑戦する マーケティング体質への革命

R&D、特許、工業デザイン……すべてはマーケの資産

――その組織体制における考え方を教えていただけますか?

 マーケティングというと、コミュニケーション領域の話だと捉える人が多いと思います。それ以前に、日本は戦後に高品質なモノ作りで世界に打って出た反面、マーケティングの必要に迫られなかった経緯があるので、マーケティングの地位自体がとても低いですね。

 私の考えは、マーケティングは決してコミュニケーションに留まらないということです。R&D、特許や工業デザイン、資材の調達能力、新規事業やM&Aもすべて、マーケティングアセットです。これらが有機的に連携して初めて、真価を発揮できます。

 私はYOKOGAWAを、マーケティングの会社にしたい。そのためには、まず組織がこの構図を体現していないといけません。ですから当社への参画が持ち上がったとき、「これらの部門をマーケティングの傘下に統合した組織を作りたい。特にR&Dだけは譲れない」とお願いをしました。それで私が入る前に、まず社長直轄組織だったR&Dを傘下にしたマーケティング本部が発足し、私が入るのと前後しながら各部門を統合していきました。今では従来のマーケティング機能であるマーコムやブランディング以外にR&D、事業開拓、M&A、特許戦略、国際標準戦略、工業デザインなど計10の主要機能がマーケティング本部の傘下にあります。

――特にR&Dは譲れない、と主張されたのはなぜですか?

 ひとことで言うと、「A VUCA World※」のごとく、今の世の中が極めて速く展開しているからです。先手先手を打たなければすぐに行き場がなくなり、技術も即コピーされる、差別化が難しい時代です。こんな予測不能な状況では、最初からホームランを狙うと絶対に三振します。最初はバントヒットでいいから、小さく始める。アイデアをひとまず具現化してからフィードバックを重ねていく、PoC(Proof of Concept)の手法も広がっていますよね。そのとき、マーケティングとR&Dが密になっていれば、アイデアがすぐモノになる。車の両輪のように、くるくると回るのです。

 ちょっと大きな話になりますが、21世紀の今は、第四次産業革命が起きているといわれています。さかのぼると18世紀末に紡績機が登場して、手工業が機械化した第一次産業革命が起こり、労使の概念が定着しました。19世紀末の第二次産業革命では電気や石油が広がり、大量生産が確立しました。次の20世紀末の第三次産業革命の肝は、コンピューターとインターネットによる情報産業の興隆ですね。

 こうみると、データを活用したIoTやAIが一般化し、仮想通貨や5Gなど“新しい当たり前”となるような技術が次々と生まれている第四次産業革命は世紀末に起こっているわけではありません。産業革命の周期もスピードが上がってきているようです。

※ VUCA(ブーカ)とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の4つの単語の頭文字をとって作られた言葉。「予測不能な状態」を意味し、現代のカオス化した経済環境を指す。

産業革命の発展が極めて速くなっている

――確かに、世紀末どころか21世紀になって20年弱ですね。つまり、それだけスピードアップしていると?

 そのとおりです。今挙げたようなトピックを包括する、デジタライゼーションの波はすさまじく、進展もおそろしく速い。だから、それに対応する企業になるには、可能な限りスピーディーに動ける組織が必要です。

 加えて、今は市場もあっという間に立ち上がって成熟し、そして廃れてしまう。このスピード感も、昔と大きく違います。たとえばブラウン管テレビは登場から約35年をかけてゆっくりと市場に普及していきましたが、一方でスマートフォンはここ10年であっという間に普及しました。

 新しいモノほど、市場に普及するスピードが速くなっていて、10年くらいで頭打ちになるのです。もっというと、モンスターを仮想現実で獲得するゲームしかり、最近のゲームなどのブームは瞬時に拡大して収束してしまう。一度起こった波を追いかけようと思ったら、もう市場がないんです。

 だから一層、経営者の意思決定から実行まですべてを速くしないといけない。特にBtoCでは、消費の意思決定ががらっと変わっているので、つかみどころがないですね。SNSの浸透で、消費すること自体が“自分を表現するブランド”になっている。かくいう私も、Facebookにラーメンなど食べ物の写真ばかり投稿していますし(笑)。

 BtoBはそこまでではないにせよ、デジタライゼーションの波はやってきています。驚かれるかもしれませんが、実は今、アメリカではプラント工場の担当者が部品をネットで比較し、購入までしているんです。型番がわかっていれば、特にメーカーと話すこともないし、アメリカのように国土が広いと対面営業にも限界があるので、ある調査ではBtoB製品の6割以上がECで取引されている※、という結果もあるくらいです。

※ Results-Powered Marketing『2016INDUSTRIAL BUYING HABITS』

オペレーション技術にITを掛け合わせた「IoT」

――BtoB企業もデジタル化が急務ということですね。ではその中で、具体的に横河電機をどう変えていこうとお考えですか?

 当社は今年度、新たに「Synaptic Business Automation(シナプティック・ビジネス・オートメーション)」というスローガンを打ち出しました。デジタルトランスフォーメーションによって神経のようにあらゆるものをつなぎ、ビジネスの自動化を提供する。ここには、我々がずっと生業としてきた製造プロセスのコントロールに、ビジネスを加えていく意図を込めています。

 IoTという言葉がありますね。当社ではこれとは違う、産業用のIoT(Industrial IoT/以下、IIoT)という言葉を掲げています。ITは通常の、インフォメーションテクノロジー。OTとはオペレーションテクノロジーで、ITとはばっさり切り離された、工場の中の運用を効率化する技術を指します。ITに比べると、OTの世界は進化が極めて遅い。時代劇のまま、時が止まっているように思えるくらいです。

 そこで我々はOTにITを融合させた独自の考え方に基づくIIoTソリューションを、クライアントのビジネスを強力に支援するために提案したいと思っています。具体的には、たとえば石油精製工場なら、これまでは予測に基づいて石油を精製していました。でも今はネットの進化によって製造地点と消費地点の距離が縮まり、石油の消費状況をすぐに生産に反映できます。そうすれば無駄がなく、逆に足りなくて機会損失になることもない。このように、情報流通を味方につければ飛躍的に効率が改善します。実際、今オイルの価格は世界的に低下しているので、各社が設備(CAPEX)よりオペレーション(OPEX)、ハードよりソフトに投資をぐっとシフトしているんです。

 YOKOGAWAは、時代劇のように時が止まっているように思えるOTに強みがありました。逆にITはこれからなので、昨年イギリスのコンサルティング会社を買収するなどして、ITによるビジネス支援を強化していく考えです。

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一人ひとりが有する多様性を引き出すこと

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 18:01 https://markezine.jp/article/detail/27905

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