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リゾームマーケティングの時代

あなたは知っているか?「T型フォード」と「初代 iPhone」が転回したマーケティングの歴史


プラザ合意と「分衆」の歴史的意味

 次第に「大衆」は分裂し始めて、徐々に機能しなくなる。消費者の多様化によって、大車輪がよろめくのだ。

 1971年スミソニアン協定で固定相場制が終わり、1985年プラザ合意でG5(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本)の蔵相が為替レート安定化のために、協調介入することになる。

 このプラザ合意が必要だったのは、消費者の多様化が理由だ。ちょうどこの頃に、「生産力のマス化(大量生産能力の社会化)」と「消費力のマス化(大量消費能力の社会化)」の両輪が不安定になり、国際政治経済的にも、無視できなくなったという見解を私は持っている。

 車軸であったつなぎ役のマスマーケティングは、安定的な「大衆」を拠り所とする。「大衆」が多様化して、バラバラになり始めると、機能しなくなる。自明だと思う。

 1985年プラザ合意と軌を一にする形で、「分衆」という言葉が世に出た。『「分衆」の誕生―ニューピープルをつかむ市場戦略とは』を、博報堂生活総合研究所が出版したのは1985年1月。

 この本の帯には「どう進む ポスト大衆消費社会」と謳われている。プラザ合意と「分衆」の誕生が同じ、1985年なのは、歴史的必然だ。

ビル・ゲイツのお陰でネット時代へ

 その10年後。1995年を境に何かがあきらかに大きく変わった。

 1995年はマイクロソフトの「Windows 95」がリリースされた年。一般の人にも使いやすいグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)が、PCを普通の消費者に解放した。結果的に一般家庭にPCが入り込んだのだ。

 「Windows 95」は社会的に大きな意味を持った。ビル・ゲイツを世界一の大富豪に押し上げたのだから、どれだけ売れのだろうか。想像もつかない。

 その影響力は当然、ネット業界にとって無視できないものだった。1990年代後半のドットコムブーム、ネットバブルは、「Windows 95」PCが一般家庭に普及していなかったら、起こらなかったはずだ。

 1994年創業のAmazon、1995年創業のeBay、Yahoo!、1998年創業のGoogle、PayPalなど、「Windows 95」でネットにアクセスした多くの人がはじめて利用したサービスだった。

「バラバラになった消費者(Fragmented Consumer)」の登場

 「Windows 95」はマーケティングにも大きな影響を与えた。その一つとして、電子メールによるマーケティングを可能にした。 電子メールマーケティングは、「One-to-Oneマーケティング」と呼ばれ注目を集めた。なぜなら「分衆」、つまり「バラバラになった消費者(Fragmented Consumer)」に情報を届けるためのソリューションだと考えられたからだ。

 電子メールは一人ひとり別々の端末へ、個別の情報を届けることができる。バラバラになった消費者へ、バラバラに情報を届けることができると考えられた。さらに、ユーザーの行動履歴に合わせて情報を届ける「行動ターゲティング」という手法・ソリューションも生まれてきた。

バラバラになった消費者(Fragmented Consumer) イメージ。『デジタルマーケティング年鑑2014』のp8、秋山隆平著「デジタルマーケティング原論」の図を改変
バラバラになった消費者(Fragmented Consumer) イメージ。
デジタルマーケティング年鑑2014』のp8、秋山隆平著「デジタルマーケティング原論」の図を改変

つながった(Connected)ことで、コペルニクスが降臨

 この「バラバラになった消費者(Fragmented Consumer)」は、今度はつながり(Connected)はじめる。 象徴的なのは、2004年のFacebook、2006年のTwitterの創業だろう。いわゆるソーシャルネットワークサービス(SNS)の普及だ。これによって、「つながった消費者(Connected Consumer)」というイメージが生まれてくる。

 「つながった消費者(Connected Consumer)」は当然、消費者同士で情報交換をする。つながっているので、お互いに情報を送り合うことが簡単にできるようになったのだ。 つまり、消費者が情報の送り手であり、同時に情報の受け手になる。これは、マーケティングのパラダイムを完全に変えた。

 マスメディア、マスマーケティングの時代の情報の送り手は、プロフェッショナルの人たちだった。マスメディアで働く記者、あるいは、ブランド企業のマーケターや広告代理店で働く人たちだった。

 「つながった消費者(Connected Consumer)」は、受け手にとどまらずに情報の送り手になった。コペルニクス的転回だ。昔の口コミは、会社や学校、地域の井戸端会議のレベルを超越しなかった。しかしSNSの口コミは、文字通り世界中にリーチする。一般人のリーチ力が、ブランドのリーチ力を凌ぐことが現実になった。

 ここに、ソーシャルマーケティング(Social Marketing)、バスマーケティング(Buzz Marketing)が誕生した。

Connected Consumerイメージ。『デジタルマーケティング年鑑2014』のp8、秋山隆平著「デジタルマーケティング原論」の図を改変
Connected Consumerイメージ。
デジタルマーケティング年鑑2014』のp8、秋山隆平著「デジタルマーケティング原論」の図を改変

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/07/18 18:45 https://markezine.jp/article/detail/28030

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