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定期誌『MarkeZine』特集

アパレル企業のオムニチャネル化を成功に導く方策

ECシステム開発は3段階で進める

 前半で紹介した5ステップでは、(4)にテクノロジーの活用を挙げましたが、直近の自社EC拡大や、店舗との連携などにもシステムの話は関わってきます。ここでは、自社ECの成長を主体として見たときの短期施策から長期的な全社施策を含めて、システム開発のフェーズ分けを見てみます(図表2)。

 ちなみに、人材やチームづくりや社内の意識改革は、オムニチャネル推進や自社ECの拡大どちらにおいても必須かつ継続的なテーマなので、全体にかかる要素です。

 主に第1フェーズが自社ECの整備にあたります。この段階ではECシステム改修などを加えずに、「販売手法」「在庫・MD」「集客」の3軸で今できることをやるフェーズです。それが整い、売上・利益が増え始めたら、それを原資に第2フェーズに挙げている機能改善や、新たな広告やSNSなどの活用に取り組んでいきます。決済サービスの充実も、顧客の買いやすさの向上に有効です。在庫連携のシステムを入れて、モールなど外部ECとも在庫を融通できるようにするのも、確実に売上が上がります。あくまでも、この段階までは「EC事業の極大化」に専念するフェーズです。

 第3フェーズが、先の5ステップでいうなら(4)や(5)にあたりますね。自社ECをWebのチカラだけで伸ばすには限界を感じるときでもあります。まさに部門を横断して全社を巻き込んで、オムニチャネル化を強力に推進する段階です。ここまでくると、より密な基幹システムや物流との連携が必要になるので、ECの拡大は経営戦略だとお話ししたのも理解いただけるのではと思います。

 では、第2〜3フェーズまで進んだ企業でよく使われているツールや決済手段のトレンドと、活用のポイントを少し紹介します。いくつか観点を挙げると、まずWeb接客ツールについて。FlipdeskやKARTE、Sprocket、ZenClerkなど有用なツールが登場しており、シナリオ作成や運用まで含めて委託できる場合もありますが、それはあくまでデータに基づいた客観的な改善になります。

 一方、自社でシナリオを作成できるくらい顧客のことをよく知って運用すれば、そこには「このブランドをどうしていきたいか」の意志を込められるので、そちらにぜひ目を向けてもらえればと思います。また、ツールで実行できる改善は一部なので、ツール単体の成果に縛られずに、常にEC全体の売上・利益の推移を軸に置いたほうがよいでしょう。

 接客ツールの利用は、情報の出し方や頻度によっては「うっとうしい」とお客様が感じてしまい、体験を損ねる可能性もあります。これも含めて、今後考えるべきは、やはりスマートフォンのような小さい画面での顧客体験です。PCサイトのように、セール会場へのアナウンスをバナーでずっと表示するといったことがしにくいので、お客様にメリットのある情報を最適なタイミングで表示すべきです。

 GMO後払いのようなコンビニ後払いやAmazon Pay、LINEログインなどの決済やログインまわりのサービスの充実は、売上向上に直結しやすいです。いろんなECサイトがある中で、自社ECのログインID(メールアドレス)やパスワードは忘れやすいため、ID連携に関しては、お客様側がスムーズにログインできるようになるので有効です。

 ツール導入では、その費用をどう見るかという観点も重要です。ROIで判断するという話もよく聞きますが、私はどちらかというと、自社運用型のツールはECシステムの延長機能として捉えています。一方で、費用が大きくなると、そのリターンを考えざるを得ないので、そのあたりの考えも、導入時に見極めるといいと思います。

店舗スタッフのモチベーション向上に

 アパレル企業において、実店舗のスタッフが活用できるITツールという観点だと、今コーディネートコンテンツが花盛りです。かつてブログがその役割を担っていましたが、今は情報発信の場がSNSに移っています。これは、ユーザーが求めるコンテンツが文字情報から画像情報へ移行していることも意味すると捉えています。スタッフが写真を撮って着用商品を登録すれば、簡単にECサイトのコーディネート一覧や該当商品ページ、さらにSNSに同時反映されるような仕組みが増えています。

 たとえばBEAMSでは、約1,200人のスタッフの方々が「ECを兼ね備えた公式サイト」でコーディネートやブログなどを投稿し、自分の投稿に対する反響や売上を見られるような仕組みを構築しています。ユーザーは好きなスタッフをお気に入り登録すると、同サイトのタイムラインでそのスタッフの更新情報をチェックできるようになります。この仕組みはスタッフのモチベーションの向上につながったり、入社して間もない若手スタッフに活躍の場を作ることができたりと複数の効果があるようです。ちなみに、これに近い仕組みで汎用性のあるツールとしてSTAFF STARTというツールも出ています。

 さて、体制からツールまで一気に解説しましたが、最後に強調したいのは、やはり人とチームづくりの重要性です。継続的に成果(部門利益)を出しながら、地道に社内のネットワークを築き、交渉しながら味方を増やしていくことが大事です。また日進月歩でテクノロジーとユーザーが進化するECの領域は、最も難しい事業と言っても過言ではありません。その上で、EC担当者や責任者を選ぶ場合は、前のポジションや社内の経歴を踏まえて、自社の強みを理解し、仲間を作りながら難題を切り開いていく人や、それを望む人が望ましいです。転職で招集する際は、社内の立ち回りを補佐できる人を右腕につけないと、すぐにハレーションが起こる可能性が出てきます。

 私はメガネスーパーには中途で入ったので、店舗にどんどん顔を出し、またキーパーソンを見つけ出して話をして、社内のECへの理解を深めながら、チームでスピーディーに矢を打ち続け事業を広げていきました。

 しばしばオムニチャネルは魔法の杖のように語られますが、今のところそれは既存店の苦境を食い止めるまでのインパクトは作れません。それは自身がユーザー目線になればわかるはずです。土台づくりから、しっかり取り組んでいただければと思います。

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この記事の著者

川添 隆(カワゾエタカシ)

株式会社メガネスーパー デジタル・コマースグループ ジェネラルマネジャー
株式会社ビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長
アパレル関連企業を2社経験後、2013年7月より現職。アイケアカンパニーとしてのEC事業、オムニチャネル推進、Webに関わるすべてを統括し、EC事業は...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/25 18:00 https://markezine.jp/article/detail/28066

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