購買データに見る、健康志向市場・安心安全食品市場の規模
今回紹介する論文の著者は、第1回の顧客時間の連載でも紹介したオムニチャネル、カスタマージャーニー研究に造詣の深いオランダ・フローニンゲン大学のPeter C. Verhoef先生とJenny van Doorn先生です。本論文では、オーガニック、フェアトレード、特保商品、環境配慮型商品を買っているのか誰で、どのような顧客層なのかを分析しています。
オムニチャネルの専門家にも関わらず、このように一見全く違う研究領域のリサーチをしているところにVerhoef先生の凄さを感じます。(そんなことに感動するのは私だけか!?)
彼らはオランダの約5,000世帯を対象に、20週間にわたって、購買した食品を特別なツールでスキャンしてもらう実験を行いました。調査は2007年11月から2008年3月、2008年11月から2009年3月の2回実施し、約10万SKUの食品購買データを取得したのです。
その上で、各家庭がオーガニック商品や、特保的商品、環境配慮型商品に支払っている金額から、Share of Wallet(直訳すると財布内シェア)を計算することで、各世帯の消費傾向の分析を行っています。
Share of Walletは、消費者が特定のブランド・店舗・企業・商品カテゴリーにどの程度お金を使っているのかを、お財布全体(家計全体)に占める構成比として示したものです。

この調査ですと、たとえば、ZERO-Fat商品、 xxライト商品、オーガニック野菜、フェアトレード商品、特保商品のような商品カテゴリーが家計に占める割合を調査しているわけです。
調査結果を見ると4つの顧客セグメントが見えてきます。
1つは調査対象の60%を占めるメインの顧客層です! どんなお客様かワクワクしますね! でも結果はなんと、いわゆる「フツーのお客様」です。このセグメントは特保や、健康をアピールする食品に平均以下の興味しか示さず、フェアトレードや環境配慮型商品にはほとんど興味を示さない層です。
この比率は私の肌感覚と合っているかもしれません。お客様は100人いれば、60人は普通の商品を買う。オーガニックや健康志向といった情報付加価値に見向きもしない。もしくは、ラベルされた情報は理解するが、何らかの理由で買わない人たちです。
2つ目のセグメントは健康アピール商品(論文ではHealth choice Label)への消費は平均より高いが、環境配慮型商品には興味がない約30%の顧客層です。自分の健康には気をつけている層なのかもしれません。
3つ目のセグメントは10%程度しかいないのですが、健康アピール商品と環境配慮型商品の両方を買う客層です。
最後のセグメントは約4%しか存在しないのですが、3つ目のセグメントをさらにパワーアップした顧客層です。その顧客層はShare of Walletにおける22%もの予算をオーガニック商品、フェアトレード商品、環境配慮型商品に使うが、健康アピール商品の購入は平均より低い、チョー思慮深い!?(フツーではない!?)利他的なお客様層です。
このように、健康や環境に配慮した商品のヘビーユーザーはオランダのような国ですら約4%しかいないのですね。日本においてこの構成比がどのように出来上がっているか知りたいものです。
このような研究は、「お客様が100人いたら、自分が開発している、マーケティングしている商品のターゲットカスタマーは何人くらいいるのか?」、さらには「ターゲットカスタマーはどこにいて、その顧客の性質、キャラクター、ペルソナはどんな感じなのか?」を理解するのに大変役に立ちます。
市場規模を調査会社のデータ等からマクロ的に理解することも大切ですが、このように「お客様が100人いたら」という視点は実務家の皆さんにも是非使っていただきたい考え方ですし、このような調査を社内で行って、その上でマクロデータとのギャップを見ると、自社のポジショニングも推測できると思います。
自分たちの買物が未来にもたらす影響って?未来志向消費
これら4つのセグメントのお客様をさらに深掘りすると、ある性質の有無が明らかになりました。それはCFC(Consideration of Future Consequence)、学術的には未来結果熟慮傾向(む、難しい!)と呼ぶものの有無です。簡単に言えば、「現在の買物、消費行動が未来に及ぼす影響を考慮すること」となります。
皆さんも容易に想像できると思いますが、4番目のセグメントの顧客層が最もCFCが高い、思慮深いお客様なのです。このようなお客様は自身の健康も大切でしょうが、環境や、生態系への影響を考慮した生産物を購入し、食生活を送る人たちであり、まだまだ圧倒的少数派なのです。
また、これらのお客様の家庭状況や教育水準も消費行動に影響を与えています。これらのお客様のお買物には、このような商品を買うことによる快楽性(快楽的買物価値)や社会的意義(社会的買物価値)があるのかもしれませんね。(買物価値については前回の連載記事をご覧ください)
一方で家族人数が多いと家計の事情もあってなかなか、健康、環境に配慮した商品には手が出ません。そもそも高いですから。セグメントの3、4にあたるお客様はやはり高学歴で、年収が高く、家族構成も小さめとなります。大家族や苦しい家計状況のご家庭ではこの手の商品群にはなかなか手が出せず、価格訴求でアピールするスーパーや商品が人気なわけです。
しかし、家計に余裕がないご家庭の買物は決してつまらないものでもないでしょうし、食生活を違う意味で楽しんでいるとも考えられます。安くて、美味しいものを上手に買い、家計をうまくやりくりする。それも買物の楽しみですし、必ずしも体に良いもの、環境に良いものを買うことが買物の快楽性につながらない人たちも当然いるわけです。
このように商品を買ってもらうためのアピールポイントは客層によって違います。何をアピールするのか? たとえば、多数派の顧客を対象とした時、健康・環境・オーガニックといった要素で購買動機を刺激するのはハードルが高いのかもしれません。