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MarkeZine Day 2025 Retail

世界のマーケティング学者から学ぶ「勝てる」マーケティング思考

「安心」と「信頼」はどちらが大切?食に関する購買行動と潜在的ニーズの調査がマーケターに語りかけること

オーガニックは健康にいいとは認知されていない!?

 Verhoef先生らはこの調査結果を受けて、特保的、健康アピール商品と、オーガニック、フェアトレード商品も含む環境配慮型商品のお客様の受け止め方についていくつかの示唆を出されています。

 たとえば、オーガニック商品は健康アピール商品としてお客様は認識していないという示唆です。これは意外ですよね。一般的には農薬も使わない商品は環境にも良いし、健康に良い印象はありますよね? 

 しかし、この調査によればオーガニック商品のお客様の認知は、環境配慮の色合いが濃く、健康商品と消費者は見ていないようなのです。

 確かに食の悩ましい問題として、摂取している食品と自身の健康の因果関係はなかなか証明できません。ですので、食品や医薬品業界では商品情報、付加価値情報の発信にかなりの制限があります。簡単にこれを食べれば、飲めば痩せる、健康になると言ってはいけないのです。

 ここからもオーガニック商品の認知が、体に良いという自分へのメリットや快楽性に訴えかけるメッセージではなく、環境に良い・優しいという、社会的に良いこととしてのメッセージに強く印象付けられているのではないか? そのような受け止め方がオーガニック製品の普及を阻害しているのではないか、と考えることができます。

 つまり、お客様がオーガニック商品のメリットを自分ごと化しておらず、どちらかというと他人事として認知しているかもしれないのです。これはマーケターとして感覚的にもそうだと思います。

 別の研究ではオーガニック商品はプロモーション効果が大きく、値引きをすると売上が伸びるという結果もあるようです。「安ければ買うよ」という自分へのわかりやすいメリット、快楽性が加わると売れるわけですね。

  • 環境配慮をアピールしても、顧客層は小さいので、そんなに売上につながらない。
  • オーガニック商品が環境配慮商品として認知されるとラベルが売上に寄与しにくい。
  • 日本においてはまだまだオーガニック商品の市場は小さい。
  • 環境配慮訴求では自分ごと化しにくい。

 私もこのあたりに常に日々悩んでおりますが、どうやったらお客様にとって有益な情報付加価値をつけて市場を創造できるかを検討していきたいと思います。

 一方で健康アピール商品を買う顧客層にはCFC(Consideration of Future Consequence)、「現在の買物、消費行動が未来に及ぼす影響を考慮すること」への考慮がなく、主に短期的なメリットとして、ダイエットや、摂取カロリーの低減を目的にしているようなのです。

 これもまた悩ましい。健康アピール商品を摂取し続けると、もしかすると長期的には健康になるなど、体に良いことがおこりそうなので、CFC的思考を自分のためには行っていそうですよね? でもそうではない。となると、なぜ健康アピール商品を買うのでしょうか?

 やはりここでも、食品摂取効果の因果関係が明確ではないことが問題のように思います。お客様は食を通して健康になりたいが、効果はよくわからない。でも「摂取しないより、した方が良い」、もしくは免罪符的に「これをとっていれば、これ以上は悪くはならないだろう」、「効果の有無は明確にはわからないが、特保ラベルがあればなんか安心」、「別にそんなに期待してない、これだけで体に良いことがすぐ現れるわけではない」そんな風に考えての買物行動なのかもしれません。

お客様にどんな情報を届けるべきなのか?

 今回は食品市場における情報付加価値をお客様がどう受け取るのかについて書かれている論文をベースにお話を進めて来ました。この事例はあくまでオランダにおけるある母集団の現状、現象であるということもできますが、私にはいくつかマーケターが考えるべきポイントを提供してくれているように思います。

 特に企業が出す情報・メッセージとお客様が受けているイメージのギャップは永遠の課題です。今回の論文は我々に、「お客様に信頼されるメッセージをいかに届けていくのか」という問題を提起してくれています。

 ただ売れれば良いと考えて安易なメッセージングで顧客を誘惑し、売上をあげることもできます。「そんな真面目に考えなくても」なんて言われそうです。この論文で見たようにお客様は別に今のお買物に不満足でいるわけではないのです。買物には快楽性があります。楽しければ良いとも言えるのです。

 それでも、お客様からお金をいただく(売上が上がる)プロセスにおいてなるべく、間違った印象や安易な安心感、その場しのぎ的なプロモーションや情報を提供して、やり過ごすことは避けるべきでしょう。

 お客様と長期的な関係を維持できれば、摂取効果として証明したり、宣伝したりはできないけれど存在する長期的なメリットを提供できる商品、サービスもあると思うのです。目に見えない関係性を構築するには、お客様の中に企業への何らかの信頼感、エンゲージメントを醸成していく必要があります。この難しい課題にも挑戦するべきだと思います。

 安易なメッセージングで「安心感やお得感」を提供してその場の売上を得るのか? 長期的な関係性を目指して骨太な商品開発と真摯なメッセージングで、お客様との「信頼感」を構築していくのか?

 デジタル活用が進む中で、Web広告を中心に今や企業は無数の顧客セグメントに対して膨大な情報発信ができます。そこにテレビCMやパブリシティ、PR活動も乗せていけば、お客様を情報の渦の中に巻き込み、売上をアップさせることも、楽しませることもできる。

 はたして、それがその企業のマーケティング活動の結果として、何を作り出すのか、顧客の心に残すのか? マーケティング活動に関わる人間として常に考え続けていきたいと思います。

今回紹介した論文は以下の通りです

Verhoef, P. C., & Van Doorn, J. (2016). Segmenting consumers according to their purchase of products with organic, fair-trade, and health labels.?Journal of Marketing Behavior,?2(1), 19-37.

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この記事の著者

奥谷 孝司(オクタニ タカシ)

オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員COCO(Chief Omni-Channel Officer)
株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
株式会社イー・ロジット 社外取締役
株式会社Engagement Commerce Lab. 代表取締役

1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「Worl...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/05/16 08:00 https://markezine.jp/article/detail/28311

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